JOURNAL

生活とデザインは繋がっているということ - Phlannèl

今回のJOURNALでは、自社開発ブランドとして誕生したPhlannèlのデザイナーを務める浅川と柿本が、ブランドのこと、それぞれのファッション感、そして生活に根付くデザインのことなどについて語り合いました。

 

 

 

 

目指したいのは“並外れた普通”

 

 

「ブランド名を考えていたとき、誰が聞いても慣れ親しんだ響きの名前がいいなと思っていました。素材や洋服にまつわる固有名詞を探していった時に、素材のフランネルという言葉に行き当たりました。フランネルの持つ毛羽立ち感とか温かみのある表情は、目指したいブランドの姿に近かったので、その言葉の響きは使おうと決めました。もう一つ、ブランドをスタートさせるときに目指した姿が、すごく普通で当たり前で生活に馴染むものを作りたいんだけど、それが並外れているということでした。普通を超えた普通、最高級の普通を作りたくて、そういった意味を含むphenomenal(フェノミナル)という単語から“ph”をとってflannelと合わせた造語を作りました。それがPhlannèlの始まりです」(柿本)

 

「普通を超えた普通を目指す前に、そもそもの普通という言葉の持つ意味合いについてですが、私なりの解釈としては無駄が削ぎ落とされていること。洋服やファッションでいえば、ずっとクローゼットにあって、10年後に引っ張り出して着てみても全く違和感や時代遅れの感じがないもの。なのでPhlannèlではむやみやたらに今の気分を洋服のデザインには取り入れていません。とは言っても特に女性は、今の気分だったり繊細な感覚の部分がとても大事だと思うので、普通を損なわない程度に今の気分を反映させています。柿本さんにとってはどうですか?」(浅川)

 

「個人的には、背景がないものやデザインには全く惹かれないですね。何か理由があって成り立っているものやデザインには納得が出来ますが、それ以外の、何もないところからただデザイン力だけで生み出された形は、僕にとって成り立ち方が普通じゃないと感じるんだと思います。僕はちゃんとしたルーツや背景があるものの存在が普通だと思っています。存在に理由があること、それが僕にとっては普通です」(柿本)

 

「特にミリタリーの洋服はそれに該当しますよね。必ず機能性やあらゆることが考え尽くされた上でデザインに反映されているので、存在に意味がありますね。ただそれがいいと思う反面、私はデザイナーなので、それをベースにしながらもアレンジをするということを楽しみたいと思っています。デザイナーである以上、レプリカを作りたいわけでもないですし、現代だったらこの部分をこうしたらより生活に馴染むなあとか、女性としてこうだったら嬉しいなあという感覚を反映させたものを作りたい。それが素材との組み合わせで解決するならば、存在するデザインに新しい素材を組み合わせるというアプローチももちろん仕事の一つですし、デザインしてアレンジする、改良するということも自分の仕事の醍醐味だと思っています」(浅川)

 

 

「あとは、機能性がないといけないとは常々思っているので、用の美も私の中では大きなテーマの一つです。よくバウハウスの例を挙げますが、バウハウスは工業生産もちゃんと出来るデザインを追求し、価格を抑えながらも、機能的でなお美しいという物を生み出しています。Phlannèlのあり方もそれに通ずるのかなと思います。Phlannèlは決して安くはないですけれど高いブランドではないので、日常の中でたくさん着てもらえる価格帯で、作りの良いものを提供したいと思っています」(浅川)

 

 

 

 

普遍的なデザインも、
より一層現代に寄り添うように

 

 

Phlannèlの定番アイテムの中でも一際強い支持を得ているのがモーターサイクルコート。フランス軍のコートを原型としながらも、アレンジを施すことで今の時代に寄り添った一着として昇華されています。まさに普遍性も機能美も兼ね備えたPhlannèlが目指したい姿なのではないでしょうか。

 

「フランス軍のモーターサイクルコートを初めて見たときに一番印象的だったのは、ウエストベルトの後ろのディティールでした。モーターサイクルコートは、ベルトの後ろをシンプルに叩きつけているだけのデザインなんです。普通のコートの考え方ではきっとベルトループが付いていたり、もう少し違ったデザインが施されているものですけれどそれがシンプルに削ぎ落とされていて、機能性もあって、とてもいいなと感じました。そのデザインはそのまま、そして大枠のデザインは踏襲していますが、細かなところで今の時代には着づらいところを、少しずつ改良しています」(浅川)

 

「これはM-35という1930年代に作られていたモデルが原型で、今からすると90年近く前のモデルだから、ディティールはめちゃくちゃ格好良いんだけどやっぱり着ようと思うと難しい部分が多い服です。日本でも人気があるのでフランスに買い付けに行った際に見つけたら買い付けるようにしていましたが、袖口やウエストのベルトを縛ったりすることで着方もいろいろアレンジ出来て雰囲気も変化させやすい、そんなデザインがいいなと思って、これはもしかしたらPhlannèlの定番になり得るんじゃないかと思って作り始めたんですよね」(柿本)

 

 

「原型のモーターサイクルコートからは肩まわりや襟まわりの癖を落として、少しバルマカーンコートのような佇まいにしています。あとはもともとコートの裏側に足を引っ掛けるためのバンドが付いているのですが、こういったディティールは現代の生活には不要なので省きました。改良を加えていって、今回はPhlannèlのモーターサイクルコートとしては第4弾です。初めて冬のモーターサイクルコートを作りました。表はウールで裏はコットン、それをボンディングにして真冬でも風を防いで暖かく着ていただけるようになっています。Phlannèlではダウンコートを出しませんが、ダウンに匹敵する暖かさです」(浅川)

 

「着た感じはマッキントッシュのゴム引きのコートのような、少しパリパリっとした生地感で、形もしっかりと立体的に出て、尚且つ機能的なもの。機能的と言っても今の機能的とは違う、クラシックで実用的なもので、すごくPhlannèlらしいものに仕上がっていると思います。個人的にはこれまでのモーターサイクルコートの中で一番好きです」(柿本)

 

 

 

直感的な満足ではなく、
記憶に残るような存在でありたい

 

 

普遍的なアイテムにも、現代の生活において無駄があれば排除し、逆に必要な機能があればそれを加えていく。そういった差し引きの感性はこれまでの経験で学んできたというデザイナーの浅川ですが、それだけでは今の時代には足りないとも話します。

 

「私はかつて、もっとデザインをするブランドに所属していた時があって、一枚でちゃんと様になるような洋服を作るというアプローチでデザインをしていました。そのあと別のブランドでベーシックなものづくりを経験したのですが、その時に、差し引きの美学じゃないですけれど、そういったデザインアプローチは自分に合っているなと実感しました。ただ、今だとストイックすぎる引き算だけの美学は通用しなくなってきていて、その中に少しだけ旨味があるくらいのバランスを目指さないといけないなと感じています」(浅川)

 

「自分のコーディネートもそうですけど、普通のものが好きだからこそ、スタイリングの中にはやっぱり一癖ないと物足りなく感じることがあります。ベースとしてシンプルがあるというのは大前提で、そういった装いの中に、靴だけはちょっと変化球のあるものを合わせるとか。その一癖欲しいなっていう感覚が、浅川さんの場合はデザインの中に旨味を足すっていうところなんじゃないですかね。洋服を生業にしているのにシンプルすぎるだけのものは少しつまらないですしね」(柿本)

 

 

「そうですね。ただ、Phlannèlではその一癖や旨味の部分をデザインに付け足すというよりは、色や素材選びでそれを表現しています。少し意外性のある色を差し込んでみたり、シンプルなデザインですけれどそこに表情の面白い素材をあててみたり。その分、シンプルに見えるデザインの方は、普通に見えてたくさん拘って、普通じゃない様々な工夫をしながら普通に見せています。身体が通った時にちゃんと美しく見えるように整えることが、普通を超えた普通を作り出す上では欠かせません」(浅川)

 

「本当に最高の素材で作っている作りの良い服だとしても、やっぱりデザインが今季だけ着て終わってしまいそうな、今の空気感だけを纏ったものだとどうしても僕自身は個人的な買い物をする時に手を出そうとは思えなくて、2年後3年後の自分が絶対に好きでいられるものしか欲しいと思えないんです。仮に5年後にそれを着ていなかったとしても、手元に置いておきたい大切な服ってたくさんあって、そのどれもが結局機能的なものとかデザインが削ぎ落とされた普遍的なものであることが多いんです。ビンテージとかが特にそうですね。僕の中でPhlannèlはそんな存在なので、誰にとってもそうあって欲しいと思って、10年後にも飽きずに着られるデザイン耐性があるものかどうか、素材として長く着ていて良さが増していくものかどうか、というところは見極めながら企画に参加しています」(柿本)

 

「食べ物で例えるなら、小さい頃に食べていたものや、一回食べただけのものでも気に入ったものはまた食べたいって絶対になりますよね。そういう感覚で、Phlannèlも一度着たら記憶に残って、なんかいいな、また着たいなと思って、5年後や10年後にもまた袖を通している、そんな服でありたいなと私も思っています。すごく地味で伝わりづらいんですが、でもちゃんとものづくりをして、その作りの良さをじわじわと体感してもらえる洋服を提供したいと思いますね」(浅川)

 

 

 

普通を見極める審美眼を育てていくもの

 

 

普通であるからこそ、着る人によってシーンを選んで、日常の中で着ることを楽しめるのがPhlannèlの良さであり、日常を共に積み重ねていくからこそ実感出来る作りの良さがあるのでしょう。二人にとって、Phlannèlがある日常のシーンはどのような場面なのか聞きました。

 

 

「僕の場合は、東京のための洋服という存在が大きくて、仕事に出かける時に着ることが多いですね。やっぱり海の近くとかでPhlannèlを着ていると個人的には少し格好つけた気分になってしまうので、東京に出てくる時、あるいは地元だとしても少しいい場所に食事に出かける時などに着ています。シンプルだけど上質感が出るのでそういうシーンにはとてもマッチします。普通だけれど、どこかやはり都会的な顔をしているブランドだなと思います」(柿本)

 

「私は本当に疲れている時とか、楽をしたいときについ手が伸びてしまいます。特にスビンコットンのジャージシリーズ。素材の安心感や着心地の良さとか、純粋な動機なんでしょうけれど、でも、日常の中でだとしてもそれを着るだけで少し気分がしゃきっとするという感覚もあると思います。Phlannèlにはそういう意味での丁度良さがあるかなと自分で着てみて実感しています。特に今は自由業のような働き方の方が増えたと思いますが、カジュアルなのにちゃんとして見えるとか、お洒落する感覚ではなく手にとるけれど気分が少し上向きになるとか、生活に馴染みながらもだらしない気持ちにならない服の存在は大きいです」(浅川)

 

「たしかに、僕もスビンコットンのカットソーは地元でも外出時でもいつでもシーンを選ばず常に着ていますね。ジャケットのインナーでも、それこそ海から上がったあとのショーツと合わせてでも。すごいお洒落しようと頑張っている感覚も決してないのにちゃんといいものに袖を通してる満足感はあって、もちろん変にお洒落して目立ったりしたくないシーンでもいい意味で目立たなくて。そういう服っていいですよね。僕は昔から、ファッションをしたいと思ったことはなくて、ファッションじゃなくて服屋をやりたいという感覚でした。一個のもののクオリティを見てそれを買うかどうかは判断するし、来年の自分も飽きずに着るかどうかを考えて服を買います。流行っているから買うとか、人と違う格好をしたいと思ってコーディネートを組むなどと考えたことももちろんないです。シンプルだけれど自分が好きなものとか、自分に似合うものを着ている方が結局どんなファッションをしている人よりもお洒落で格好良いと思いませんか?」(柿本)

 

「背景があってファッションを楽しんでいる人や、その人らしさがあって洋服を着こなしている人に私も憧れますね。洋服のセンスだけではなく日常の生活にまつわる物や考え方のセンスの良い人というのは、日々の行動にもそのセンスの良さがすごく表れていると感じます。私自身、なかなかそうあれない難しさもありますけれどね」(浅川)

 

 

「以前に生活とデザインは繋がっているというお話をしたことがありますが、日常をなるべく丁寧に過ごして心も身体も健全に保つことがデザインに繋がると思っています。昔は、1ヶ月くらいこもってデザインを考えたりする仕事の仕方をしていたデザイナーさんもいましたが、私たちはそれが不可能で、日常の中で考えなければいけません。買い物の隙間や、通勤途中に隙間を見つけてアイディアを出して、ぱっと思い浮かんだことをそのまま提案してみたり、その繰り返しです。自分自身のバランスが取れていればそのアイディアの精度も高く辻褄のあったことがすんなり出来ますが、一方で乱れているとそれがチグハグしてしまったりするんです。それを整えるためにも出来る限り日常を丁寧に暮らすことが、大事なんだと思います」(浅川)

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya