JOURNAL

着る人がその余白を
埋めてくれるように- ULTERIOR

21SSコレクションより新たに取り扱いの始まる“ULTERIOR(アルテリア)”。コレクションアイテムに先駆け、BLOOM&BRANCH各店にて11月14日より別注のコートがリリースとなります。かつて所属していたセレクトショップで共に働いていたという柿本とULTERIORデザイナーの牧大輔さん。そんなお二人の対談を通して、牧さんの考える日本的な美意識についてやものづくりへの拘り、そして今回の別注アイテムの誕生秘話についてご紹介します。

 

 

 

導いたのは、純粋に魅力的な服の存在感

 

 

かつて共に働いていたというお二人ですが、ULTERIORとBLOOM&BRANCHが新たに取り組みをスタートするに至るには、少し意外な出会いのエピソードがあるようです。

 

 

「牧さんがULTERIORを始める前にやっていたブランドの展示会には何度か足を運ばせてもらっていました。その時に牧さんが新しくブランドをスタートされるということもなんとなく聞いていたんですけど、牧さんからULTERIORの展示会に呼ばれたという記憶はあまりなくて、何故か最初の展示会には行かなかったんですよね。牧さん自身があまりぐいぐいと積極的に売り込むというようなことをしない方だからだと思うんですが」。(柿本)

 

「知り合いに『展示会に来てください』とあまり強くは言いたくないタイプで、気になる人とか、見てみたい人に来てもらえたらいいかな、くらいの感覚でした。だからもしかしたら展示会に誘っていなかったのかもしれません。でもある日、去年の年末くらいだったと思うんですが、僕が乗っていた電車から降りようとした時、開いた電車のドアの前にいた人にいきなり腕を掴まれて(笑)、誰かと思って顔を見上げたらかっきー※1でした」。(牧さん:以下、牧)
※1 柿本の愛称

 

 

「僕も表参道駅で電車を待っていて、開いたドアの向こうから牧さんが出てきたからすごいびっくりしたんですよ。思わず腕をぐわっと掴んで、声を掛けてしまいました。その時牧さんが着ていたのが、今回別注させてもらったコートでした。牧さんが着ているその姿があまりにいい雰囲気だったので、『牧さんじゃないですか!お久しぶりです!』と声を掛けて二言めには『格好良いコート着てますね、どこのですか?』と聞いてしまったと思います。そうしたら、自分で作ったコートなんだよと言われて、新しいブランドを始められていたことを思い出しました。でもそれくらい純粋に、何も知らずに見ても格好良かったというのが第一印象です」。(柿本)

 

「展示会を見に行きたいと言ってくれたんだけど、もうその時は展示会も終わっていて。それでもパリ出張に行く前にどうしても見たいと言ってくれて、20AWシーズンのコレクションを見てもらいました。ただ20AWではほぼ同じデザインのコートは素材違いで作りましたが、僕が着ていたこのシャンブレーギャバジンの素材は作っていなかったんですよね。一通り見てくれたあとで、あのコートはないんですか?という話になって、あの素材のコートが欲しいと言ってくれたんです。僕の中では定番的にやりたいものではあったけれど、定番ってすごく難しくて、前回のリリースのものが正解だとも思っていなかったし、同じ物をずっと作っていてもいつか飽きられてしまうかもしれないし、だからワンシーズンは作らずにじっくり考えようと思って敢えて展示会に並べなかったんですよね。でも実は僕の周りでも、このコートを着ていると褒められることが多いと言ってくれる人が実際は多かった。正直派手さは全くなくて見る人が見ないと何がいいのか分からないようなコートだと思うんですけれど、かっきーも会ってすぐにこのコートのことを褒めてくれたから、やってみようと思いました」。(牧)

 

 

 

 

陰影が映し出す本当の美しさ

 

 

そんな経緯で別注商品のリリースから取り扱いスタートとなったULTERIORのブランドコンセプトは、BLOOM&BRANCHの価値観と相通ずる部分があります。牧さんがブランドを立ち上げるにあたり、自分なりに見つめ直したのが日本人の美意識についてだったそうです。

 

「洋服って元々は西洋のものなので、ルーツを辿ると全てはヨーロッパに繋がっていきますよね。このコートだって、トレンチコートの元を辿ればヨーロッパに行き着きます。残念ながら日本にルーツはない。それらを日本人が模倣したり再解釈したりして、自分たちなりに洋服を作ったり着たりしているわけですが、そんな行為を通して、じゃあ自分は日本人として、洋服にどういうアレンジを加えられるのだろうかということをまず考え始めました。そうしたら、日本人なりの感覚とか日本的美意識ってなんだろうという疑問が出てきて、そこを掘り下げはじめたわけですよね。ただ、日本人が日本の美意識について書いている本をひたすら読んで、それでもなんだか自分の中でしっくりこなかったというのが正直な感想でした。その時本当にありとあらゆる本を読みました。そこで唯一腑に落ちたのが、レナード・コーレンの本だったんです。そこまで行き着いたタイミングで、奥さんにその一部始終を話したところ、あなたが考えているのはこういうことじゃない?と差し出されたのが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』でした。一流と呼ばれるデザイナーが皆読んで絶賛している本だったので、この本の存在は勿論知っていました。ただ、自宅の本棚にあるなんて全く気づかなかったんですけどね(笑)」(牧)

 

陰翳礼讃を改めて読んだところ、まさに自分の考えていたことはこれなんだと、全てが腑に落ちたそうです。物体の美しさはそのもの自体でなく、陰影という環境要因によってはじめて美しさを放つこともあるということ、陰影がものの本来の美しさを浮かび上がらせるという解釈は、ものの存在自体によって良し悪しを判断する西洋にはない価値観でしょう。

 

 

「例えば漆の碗などもそうですよね。きらびやかで目立つ様相は全くなく静謐な存在ですけれど、刷毛目のニュアンスがわずかな光によって陰影を浮かび上がらせたり。その姿がなおのこと美しく感じられるというのは日本人的な美意識かもしれません」。(柿本)

 

「今ってやはりSNSも全盛だし、いかにひと目で格好良く映るか、ということが何より重要視されているけれど、それって本当に正しいことなのかなという疑問は常にありました。同じ光量に照らされて画一的なビジュアルが撮られて、その印象だけでものの良し悪しが決まるという感覚は、もちろん第一印象が良いということだから決して悪いことではないんですが、それだけが洋服の価値ではないはずなんだと。自分自身がそうなんですが、洋服だけが個性を放っているようなものってあまり着たいとは思えないし、洋服に人の身体が入ることで、着る人の個性が活かされるという洋服の在り方の方がより自然だなと思うんです。コロナの影響もあって、世の中の少なからざる人が生活に重心を置くようになったと思うんですけど、生活にいかに馴染んでいるかって結構大事だと思っています。その人の生活やスタイルや全てがその人自身として表れるはずだから」。(牧)

 

「それはシンプルという感覚ともまた違った意味合いですよね。削ぎ落とされて何もない、シンプルだ、というわけじゃなくて、着る人の個性を受け止められる器の大きさがあるというか」。(柿本)

 

「そもそもシンプルってどういう状態を指すのかの定義も難しいですけど、僕が作る服は普通に見える一方で決してシンプルではないです。シンプルではないけれど、見た目はどちらかというと地味かもしれないし、ぱっと見た感じが映えるデザインはありません。ただその分洋服に余白があるから、その余白を、着る人自身が埋めていってくれたらいいなと。その人の個性があってはじめて格好良く成立する洋服があってもいいんじゃないかって思いますね。だからコートも、色んな着方をしてもらっていいと思っています。そういう部分がこのコートにある余白というか。ウエストベルトを絞っても外してもいいし、打掛用のボタンもどこで止めてもいい、外してもいい。それぞれの生活シーンやスタイリングや、色んな要素に合わせてもらえたらと思いますね」。(牧)

 

 

実際に牧さんが半年ほど着ているというコートをお持ちいただきましたが、着る人によって雰囲気を変えるそのコートは、牧さんの目指す洋服の在り方をそのまま表してくれているようにも感じられます。

 

「半年着た段階でもこれだけ表情が変わるってすごいですよね、めちゃくちゃ格好良いです。生地が少しくたっとしてきているからか、新品のものと色すら少し違って見えます。日本人は侘び寂びの美意識があるように、経年の変化に美しさを見出すことってあると思いますが、服作りにおいてもそういった変化を計算して作っているんですか」。(柿本)

 

「長く着れる耐性が色んな意味であるかどうかは意識しています。このコートもそうなんですが、通常こういったギャバジンのコートは、双糸を用いることがほとんどですが、三子糸のほうが強度的には増すなとか、打ち込みは強い方がもちろん強度も増すなとか。ただ、もちろん強度が優先されているわけではなく、目指したい生地の表情を作るためにこの糸と打ち込み強度を選択した結果ですけれど。デザイン強度も備わり、さらに物質的な強度も備わるならばそのバランスが取れる方法を選択したいなと思っています」。(牧)

 

 

 

 

経験全てが今を作る要素になる

 

 

陰影の美しい玉虫色のコートは、牧さん自身が好きだという60年代のトレンチコートの生地を目指して作ったオリジナル。この表情を出すために、長く付き合いのある生地屋さんで試織を繰り返したそうです。

 

「60年代より新しいトレンチコートになるとしっかりとしたカーキとかベージュとか、もっとベタな色の出方になるんですが、このなんとも言えない奥深いカーキの玉虫色ってなかなか見かけなくなっています。その生地を目指して、60双糸が一般的なところを三子糸に変えたり、畝が立つように織りを調整したり、あとは緯糸の色を変えたり素材を変えたりして、何度も試織して理想の生地を作りました。出来上がった生地では緯糸にオレンジがかったブラウンの糸を使用しているんですが、それによってこの奥深い表情が出ます」。(牧)

 

 

「形は、19AWで実際に作ったコートを自分で着ていて気になった箇所を修正しています。蹴回しはより広くとって動きやすくする一方、ベントは要らなくなるので排除しました。ただ、そうすると風が強い日には裾が煽られて捲れ上がってしまうことがあって、それは実際に着ていて不便に思ったので内側に煽り止めのボタンをつけました。あと、僕は休みの日には出来るだけバッグを持ちたくないタイプなんで、メインのポケットは完全に物を入れる想定でデザインしています。ただ、大きなポケットをつけたときに、手を入れるとなんだか心許ないという感じがあって、手を入れるためのポケットは別で作ってあります」。(牧)

 

「そう、このポケットがすごく良いです。ポケットの存在に気づかないでコートを着た時に、自然とこっちのポケットに手が吸い込まれていきました。それくらい身体に負担なく自然なポジションに作られています、びっくりしました。手を入れたときの佇まいすら美しいですよね。あと、ちょうど良いところでポケットの底に手がつくんです。だからすごく安心感があります。このポケットの仕様ってビンテージであったりするんですか」。(柿本)

 

 

「このポケットは、本当に自分の経験で考えたディティールです。記憶の中には多分、ビンテージのコートによくある貫通式のポケットのディティールがあって、あれって今の時代の実用性を考えるとめちゃくちゃ不便だと思うんです。でもあのポケットの考え方は頭の片隅にあったから、それをイメージしながら実用的なディティールになっていったという感じがします。このポケット位置はかなり検証してパターン修正したりして作りました。あと別注のコートは裏地が変わっているのもポイントですね。この色はかっきーからのリクエストです」。(牧)

 

 

「僕は以前働いていたセレクトショップでスーツ部門の統括責任者を任されたことがあったんですが、その時に培ったスタイリングの理論とかが結構今の自分のスタイルに大きく影響していると思います。例えばネクタイとシャツの組み合わせではネクタイのブルーの色を拾って、それとシャツのチェックの色を合わせる、とかそういった基本的な考え方なんですけど。どこかとどこかの色をリンクさせて全体を整えるという考え方は、今でも無意識でやっていて、このコートもおそらく緯糸に使われているオレンジがかった茶色を無意識的に拾ったんだと思います。あとは、元々のデザインではチェック柄の裏地なんですが、これを無地にしてもらいました。僕自身、汎用性の高さというのが、コートに求める条件としてあるんです。どんなアイテムでも迷いなく合わせたいことを考えると、裏地がチェックだと柄のパンツなどが合わせづらいと感じてしまう。だから、コートの表地も裏地も、他のアイテムとのまとまりがいいように色も合わせて柄も無くしたという経緯があります」。(柿本)

 

「その考えはすごく分かります。僕も近くの色を拾って他の色を決めたりという考え方をよくやりますね。僕の場合はこのコートでは逆だったんですけど、カーキに近い玉虫色を目指していたっていうこともあって、この奥行きのあるカーキの色を拾ってキュプラの裏地の色を決めて、全体を合わせました」。(牧)

 

 

「実は僕がブランドを始めて最初に作ったのがこの生地でした。付き合いの長い生地屋さんだから僕の思いも理解してくれて色々無理を聞いてくれた結果出来た生地なので、僕自身もすごく思い入れがあります。そのコートを褒めてくれて、そのコートを別注したい、取り扱いの最初のアイテムとして発売したいと言ってくれたときは嬉しかったです。表現したいことを、伝えたい人に、ちゃんと伝えられているのかもしれないな、とそのとき感じました」。(牧)

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya