JOURNAL

過去から今、そして未来へつなぐ
- R.ALAGAN

アパレルブランドのバイヤーなど豊富な経験とキャリアを積まれてきたR.ALAGANデザイナーの高橋れいみさん。2016年の秋に初めて作り上げたコレクションは友人だけに発表。その後は旅をしながらジュエリーの行商のようなことをしたいと思っていたと話します。芯がありながらも自由な世界観で多くの人を魅了するR.ALAGANというブランドはまさに高橋さんの姿そのもののようです。そんなブランドが誕生したきっかけや、強く残る幼少期の記憶、そして次の世代へ引き継ぐためのジュエリーを作ることに対する思いをお話しくださいました。

 

 

 

すべての経験が今の自分を作り出す

 

 

「当時仕事をしていたブランドでビンテージの買い付けのためにパリを訪れていたのですが、そのときタクシー強盗に遭ってしまったのが大きな契機となりました。その経験が、後々のブランドの立ち上げにつながっていると思います。スーツケース以外のすべての荷物を取られてしまったので、携帯や財布や、パスポートすらなくなってしまったわけなんですよね。最初はもちろん悲しみでいっぱいだったのに、電話もかかってこない、メールも見れない、何にも追われることなくゆったりと流れる時間が妙に心地良く感じてきてしまい、パスポートがないから自分が何者でもないような感覚にすらなって、自分にとって必要なものはそれほど多くはないと気づかせてもらったような体験でした。その当時、スピーディーなマーケットに自分自身が疲弊していたこともあり、自分の在り方を見つめ直す契機になったように思います」。(高橋さん:以下、高橋)

 

「そのような経験をされてきた中で、特に今のデザインワークに大きく影響しているようなことはありますか」。(中出)

 

「今の私に大きく影響しているのは幼少期に台湾で過ごした時間と、大学時代にアートに勤しんでいたときの記憶が一番強いです。ただ、バイヤーをする前にお店で販売も経験しましたし、期間こそ1年半と短かったですけれど得るものはたくさんありました。素材の扱い方など商品に付随する正確な知識を自分自身で養うこと、そしてそれらの情報や知識を携えながらお客様の願いを叶える洋服をご提案することは今に繋がる貴重な経験でした。自分が買い付けてきたものがどのようにお客様の手に取られるのかということを実際に体感出来たのもよかったです。あとはバイヤー時代にメゾンブランドの買い付けが出来たことも記憶に残っています。彼らのクラフツマンシップに触れ、彼らの作り出すクオリティをこの目で見ることができ、またインディペンデントなデザイナーさんと出会えたことは財産です」。(高橋)

 

 

「それだけファッション、特に洋服の世界での経験が豊富なのにも関わらず、ご自身のブランドは洋服ではなくジュエリーを選択したのは、何か理由があるのでしょうか」。(中出)

 

「大学時代にアートを勉強していたと言いましたが、当時はカリフォルニアの大学に通っていて、そこでジュエリーや陶芸のクラスなど様々なアートを学びました。その経験から、自分でブランドを始めたりデザインをするのならば、オブジェクトに一番近いジュエリーがしっくりくるなと感じていました。あとは、幼少期に台湾と日本を行き来していたことがあったのですが、その当時周りにはすごくファッショナブルな大人の女性がたくさんいたんですよね。そんな彼女たちがみんな煌びやかなジュエリーを身に付けていたんです。その記憶がずっと強く残っています。きっとそういう幼い時の記憶が影響しているんだと思いますね」。(高橋)

 

 

 

気分に寄り添ってくれる
お守りのようなジュエリー

 

 

「20AWコレクションの“fortunate”というテーマも、ご自身が持っているという、幸運のチャームがついた台湾のブレスレットなどをモチーフにされているそうですね」。(中出)

 

 

「そうです。台湾では、子供は生まれたときにみんな純金のブレスレットをもらうんです。色んな思いの込められたチャームが紐でつけられたブレスレットで、そこには翡翠がついていたり黄金がついていたり。モチーフも様々で全てに意味があります。船のチャームは幸運を運ぶとされていたり、葉のモチーフは生命力を表すものとされています。そんなブレスレットを自分なりにモダンに表現したコレクションが、20AWに出来上がりました。今の経験、ニュースや、過去の体験など色んなものがミックスされていつもコレクションは完成しています。今回は特に、カナダやアマゾンの森林火災、児童虐待、香港の民主化デモ、ウイグル族の弾圧など世界中で悲しいニュースが続いていたこともあり、それに向けて、願いを込めて」。(高橋)

 

「そんな思いをお伺いしていて、ちょうど世の中はコロナもあり混沌とした日々になってしまい、私自身もお守りとして身につけられるジュエリーの存在にすごくパワーをもらっていました。そういったこともあり皆さんへ幸運を届けたいというれいみさんの思いをさらに強く届けたく、今回別注でお願いしたいと思ったオニキスのリングは、せっかくなら男女関係なくつけていただけるデザインにしたかったのと、どの指にはめてもいいようにと思い、通常よりサイズレンジも広く作っていただきました。何より、オニキスを是非使わせていただきたいなと思って」。(中出)

 

 

「オニキスは邪気を払うとされていますしね。パールの白とオニキスの黒とで、白と黒のカラーコントラストを作りたいと思っていたのもあり、オニキスは最初のコレクションから使用している素材です。でも今まではオニキスはシルバーのリングなどに使っていたので、オニキスとゴールドの組み合わせは初めてでとても新鮮ですね。これを作ってくれている職人さんは本当に腕の良い職人さんで、製品が上がったときにチェックするとスクラッチ※1がないんですよね。ちょっとした面取りにもその人のセンスは表れるので、今携わってくれている感覚の良い職人さんたちには本当に感謝しています。定期的に集まって、ただただ他愛のない話をして、一緒に食事したりする大切な仲間です」。(高橋)
※1ジュエリーの磨き残しがあることでその上からメッキをのせると傷がついているように見えてしまうこと

 

 

 

 

何気ない毎日に潜む
たくさんの気づきを与えてくれる存在

 

 

また、R.ALAGANのジュエリーの魅力の一つがすべてのアイテムに込められたストーリーの数々。それらのインスピレーション源はどんなところに潜んでいるのでしょうか。

 

「時代を切り開いた人々の書籍や映画、アートはもちろん、周りの尊敬すべき友人・知人との関わりや、子供と過ごす時間です。以前にコラボレーションしたアーティストの方との出会いもとても大きかったと感じるのですが、その方と出かけていると、インスピレーションの拾い方というか、日常の様々な場面を独自の視点で切り取り気づきを得るという発想にとても感化されます。以前はもちろん旅行に行った先でインスピレーションを得ることも多かったですが、それはどちらかというとインスピレーションを探しに行くような感覚だったのかなと今振り返ると感じますね。今は日常の中にあることへ、自然と気づきを得たり何かを発見することが増えました。創作自体も、以前ほどファッション性の強いものはなくなり、だんだんとアート性が強くなってきたようにも思います」。(高橋)

 

「日常から拾い上げる気づきや感銘を受ける場面というのは、やはりお子様といる時間に得ることは多いのでしょうか。母親としての生活が、ご自身のデザインワークに与える影響というのもありそうですね」。(中出)

 

 

「それはもう十分にありますね。バイヤーだった時から、テーマを考えたりするようなディレクターに近いお仕事をさせていただいていましたが、その時はどちらかと言えばトレンドを見たりマーケットの動きを予測しながら私たちらしいものを提案するという思考の方法でした。だから自分らしさや個性を出すということはあまり上手くは出来ていなかったと思うんですよね。ただ子供が生まれてからは、子供たちの作為のない純粋な言動にはっとさせられることがたくさんありますし、子供が生まれてから自分らしい表現を出来るようになったと感じます」。(高橋)

 

 

「この前は子供が海で本当に信じられないくらいたくさんの貝殻を拾ってきてくれて、『ママこれでピアス作りなよ』と言って絵を描いてくれたんですよね。20SSのコレクションの制作期間には、子供と粘土遊びをしていたときになんとも言いようのないものを作り出している姿を見て、大学時代の陶芸のクラスを思い出したり。それらの純粋な発想の全てに、影響を受けていると思います。あとこれはもう一つ、私がジュエリーのデザインをしようと選択した理由ですが、子供に引き継げるものがいいなという思いがありました。洋服よりも尚更、ジュエリーは修理をすればずっと使うことができますから」。(高橋)

 

「R.ALAGANのブランドをお好きな方には、同じように母親として毎日奮闘している方など、芯が強い女性が多いように感じます」。(中出)

 

「特に私は人種の坩堝のロサンゼルスで過ごしてきたこともありすごくフラットな感覚でいるので、女性のためにということを強く念頭に置いたことはないですが、でも女性像としてはちゃんと自分の意思を持っている人たちで、日々頑張っている中で癒しが欲しいなと思っているような人たちに届けたいなと。以前“The Silence”というテーマを設けたコレクションのときは、ママたちから本当にたくさんの反響があったと思います。息つく暇もないママたちの少なからずの静寂を生み出すものとして、私の作ったジュエリーが届いたのかな、と思いました」。(高橋)

 

 

「れいみさんご自身は、母親としてもお忙しい毎日を過ごされていると思いますが、その中でも大切にしていることや、日々ルーティンワークにしていることなどはありますか」。(中出)

 

「LINEとか、デジタルなものに触れていると疲れてしまうので、少し時間を置くようにしていますね。月曜日は瞑想と空想の日にしていて、本を読んだりアートブックを見たり、夜子供が寝静まってから頭の中を整理したりして過ごします。普段忙しい時には洗濯物を畳んでいないことはありますが、料理はできるだけしています。適度に手を抜きながら、でもみんなで食卓を囲むことは忘れないようにしています。職人さんとも同様に、ご飯を食べに行ってくだらない話をして、というような何気ない時間を過ごすことを大切にしています。日本の文化を守ってくれている彼らの存在や技術を大切にしたいです」。(高橋)

 

 

そう話す高橋さんは、自身のブランドがスピーディーな市場で消費されていくことを危惧しているとも話します。

 

「最近すごく感じるのは、みんな言葉を疎かにしてしまっていることが多いような気がしています。確かにあんまり言葉を伝えすぎると、シーンや大切にしたいニュアンスなどが逆に伝わりづらくなるので、作品撮りをする時などは言葉を尽くしすぎないように気をつけてはいるんですけれど。それでも最近世の中の傾向として、みんな言葉離れをしていて説明されることを嫌うような空気を感じませんか?私はアートを観に行ったり本を読む時には、後書きやレビューなども含め、作者がなぜそういう作品を作ったのかを必ず知るように心がけています。アートやファッションは、自分自身がどう感じるかという主観に自由を与えてくれるものではありますが、作者の意図を知ることや受け継がれてきた文化を知ること、大切にすることを、私は決して疎かにしたくないんです。今の世の中の消費行動に怖さを感じることもありますし、もっとみんながものごとの背景に興味を持って様々なことを選択してくれたらいいなと思います」。(高橋)

 

「私たちも同じように考えています。ものの背景はしっかり目を向けるべきところですし、実際に買い付けをする際にも、目先の格好良さではなくて本当に作りの良いものを、デザイナーの方々から直接お話を伺いながら見極めて、お店にセレクトさせていただいています。ものの本来の価値は、生産背景にこそ備わっているはずなので、それらをしっかり伝えることを、私たちは心がけています。こうしてデザイナーの方をお招きしてインタビューさせていただくことも同じ動機です」。(中出)

 

「ジュエリーはもちろんのこと、陶磁器や建築などにおいても、昔作られていたものには、今では考えられないような数の工程を踏まれているものが多くありますよね。そして昔はその技術力や労力にしっかりと価値が見出され、ふさわしい対価や敬意が払われていたと思います。それに比べると現代は、ものの価値を損得で考えすぎるところがあるので、私はものへの正しい価値として、職人への敬意をしっかりと払いたいと思っています」。(高橋)

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya