JOURNAL

My Standard Items

スタンダードアイテムや定番品というのは、誰かが示してくれたものでもなければ、トレンドから拾い上げたものでもなく、自分のワードローブの中で必然的に生まれ、自らが選んだものに他なりません。今回はディレクター二人が自分自身の眼を信じて選んだ「マイ・スタンダードアイテム」を通して、BLOOM&BRANCHに宿るフィロソフィーや、自分らしさを生み出す着こなし、もの選びのヒントを探ります。
今回はディレクター柿本の「マイ・スタンダードアイテム」のご紹介です。

 

 

 

ワイドシルエットのスラックス

 

 

Baggy Slacks (left) / m’s braque
Dress Trousers(right) / Hideaki Saito

 

「自分のスタイリングを振り返ってみてもパンツは絶対にワイドシルエットです。冬はスラックスとデニムが特に多くて、最初にスラックスを履き始めたときはインコテックスみたいな王道のドレスのスラックスから入って、細身のものを履いていました。スーツの責任者をしていたことも影響していたと思います。そこからは本当に自分の好みの方にシフトしていって、ワイドシルエットがスタンダードになりました。その中でもグレーとネイビーが自分の中での基本色。それ以外の色はスラックスではほぼ買わないんじゃないかなと思います。チャコールとダークネイビーは常に探しているし、いいものがあったら買っていますね」

 

基本色以外は手に取らないという気に入りの数々を、実際にスタイリングに取り入れる際に気をつけることは全体のバランスなのだそうです。

 

「自分の服の着方として、きれいすぎない・カジュアルすぎないっていうバランスの取り方が何より大切だと思っていて、例えばトップスがスウェットだったらそこにデニムは合わせない。あるいはニューバランスを履いたり、フランス製のスタンスミスを履こうとした時も同じようにボトムスは少しきれいにしたくなります。合わせるものを他に決めた時にそのアイテムがカジュアル寄りのものだったら、そのバランスを取ろうとするアイテムとして絶対にスラックスが必要になるんです。そういった意味でスラックスは自分のスタイルに欠かせないもの。あと、プライベートでスラックスを履く時、やっぱり細身のものだときれいに見え過ぎてしまう感じがあって、同じ理由からワイドシルエットのものを好むようになりました」

 

そんな中でこの冬に特に履いた2本がHideaki Saitoのドレストラウザーとm’s braqueのバギースラックス。Hideaki Saitoのものは友人の結婚式用にオーダーメイドで制作したもので、カジュアル使いすることを想定していなかったにも関わらず今では一番気に入っていると話します。

 

「結婚式用に仕立てたスリーピーススーツのトラウザーなんですが、自分の好きなシルエットとかヒップ、膝の形から裾幅…至る所までお願いをして、テーラーだけでなくパタンナーさんにも苦労をかけてしまいつつ作ってもらったものなんです。だから当たり前なんですけど自分でものすごく気に入ったシルエットのものが出来上がって。もちろん生地も生地見本の中から自分でセレクトしています。イギリスで一番上質な打ち込みの良いフラノの素材でカーキがかったチャコールのチョークストライプですね。結婚式では一回しか着ていなかったですが、それからふとした時にカジュアル使いし、それ以来は一番履いているスラックスです」

 

 

「m’s braqueの方はウールシルクの素材で、シルクのちょっと凹凸のある表情とかネップの風合いが特徴的なもの。こっちは先ほどのものと対照的に春とか秋の端境の時期に活躍する1本です。自宅で洗濯もしてしまいますし、そのままプレスもせずしわっとした生地の表情を楽しみながらビンテージアイテムをよく合わせて履きます。日常着であるからこそ、楽に履けるもの、自分が着ていて心地が良いものという感覚は結構大事だと思います。僕の場合は洋服屋っぽい印象とかファッション要素を強く感じる着こなしとか、セクシーな雰囲気は全く求めていなくて、どこに行っても出来るだけ目立たず普通にその景色に馴染んでいたい。けどそんな普通のものを身に纏っている自分自身は高揚している、心地良さに満足していられる、そんなものをいつも求めています」

 

 

 

COMOLIのレギュラーカラーシャツは
白とサックス

 

 

Poplin Shirt(left)・COMOLI Shirt(right) / COMOLI

 

「COMOLIの服を好きな理由は、小森さんがやっていること、考えていることに嫌いな要素が全くないこと。昔の服をベースにデザインされたアイテムもいくつかあると思いますが、そういったベースのアイテムやそれが存在していた背景を絶対に大切にしている姿勢や、そこに余計にデザインしすぎることのないものづくり、そして生み出すシルエットはもちろんのこと、やっていること全てが自分の永遠のオリジナルアイテムを作り出しているようで。自分にとってのスタンダードウェアがCOMOLIの服だと感じます。例えば流行ってる服だと言われようが、若い人のトレンドになろうが、僕自身はそんなことはどうでも良くて、自分がCOMOLIに対してリスペクトの気持ちを抱いているから、自分が好んで選んでいる、それで十分満足です」

 

 

「定番のコモリシャツはシルクを買ったり、柄を買ったり、サイズ違いで買ったりとにかくたくさん持っていて、自分の中のスタンダードアイテムとして欠かせないものです。体型にも合うし心地良く着られるのですが、何より一番好きなポイントが襟。ショートポイントの襟型、台襟の低さによって、一つボタンを開けても二つ開けても、もちろん全部閉めても、どんな着方でも綺麗に完璧に整えてくれるんです。第二ボタンまで外すと少しセクシーな雰囲気が出てしまうシャツもたくさんあると思いますが、これは全くそんなこともなく、カジュアルなのに上品に大人の表情を出してくれます。そんな中で新しくリリースされたポプリンシャツも買ったんですが、これもすごく良くて。生地は超細番手のスコットランドのシャツ生地ですが、素肌に着たくなるほど本当に気持ちいいんですよ。欧米の人はこういったシャツを下着がわりに素肌に着てジャケットやニットを重ねたりしますし、そういった高級素材を用いているにも関わらずシルエットはコモリシャツより脱力するほどゆったりしたサイジングに落とし込んでいて、上品なのにカジュアルに着られるその絶妙なバランスが自分の中でパーフェクトなんです」

 

 

「白のシャツとサックスのシャツは、自分の中ではシャツのスタンダードカラー。スラックスの時に挙げた二色と同じですね。ただこのサックスも、着てる本人にしか分からないほど細かいパープルのストライプになっているんですよ。色表記はサックスなんですが、そこに薄いパープルが乗っていて、遠目から見ると無地にも見えるのに近づくと細かいストライプで。そういった細部まで抜かりないニュアンスもすごいいいなと思うところです。このシャツはスタイリングを何も考えずとも自分が持っているものに合わせられる万能な一着です。スラックスも軍パンも、デニムももちろん、何でも合わせられます」

 

 

 

マイクさんの作る
POSTALCOというプロダクト

 

 

Legal Envelopes・Deer Skin Flat Wallet・Kettle Zipper Wallet / POSTALCO

 

「POSTALCOもCOMOLIと同じように、マイクさんの考えていることにワクワクできるところが、このプロダクトを好きな何よりの理由です。世の中にはデザイナーという人は本当にたくさんいる中で、万人には考えられないような斬新な発想、独特の視点を持っているのがマイクさんだと思います。美しいプロダクトに仕上げる中でも、使いやすい道具を作るということを忘れず、どう使っていくかの過程も考えていると思うので、結局のところそんなアイテムを使う僕自身、買った時より使った後の方が満足度が高まります。日々使うことで、『やっぱいいね』って思うものや『すごく便利だな』と感じられるものが多い。使ってじわじわと、『買ってよかったな』という気持ちになります」

 

その中でも特に気に入っているのがKettle Zipper Wallet。抜群の収納力は他に探しても右に出るものはないと柿本は話します。

 

「違うもので、デザインが優れたものはあると思うけど、この財布の収納力に慣れてしまうと、もう他に探すことができないんじゃないかと思います。そしてこの収納量でも美しいプロダクトとしてまとまっている。他の財布は中身をぎゅうぎゅうにすると残念な形になってしまうものもありますがこれは中にたくさんものを入れても、あるいは逆にものを入れなくてもペタンコにならずに直立してくれるんですよね」

 

 

「Deer Skin Flat Walletは二通りの使い方をしていて、一つに名刺入れとして。昔は名刺入れに名刺をがさっと入れていたんですが、それだと不必要に溜まりすぎてしまうのでこのフラットウォレットに変えて、こまめに入れ替えるようにしています。もう一つは、休みの日にこの財布(Kettle Zipper Wallet)すら持ちたくない時があるので、そういった日にはこのフラットウォレットにカードと1万円札と免許証だけをすっと入れて車で出かけるという使い方。あともう一つ、これは邪道ですが、このフラットウォレットを極力薄くしておくと財布の中に収まるんです。僕は本当に失くし物が多くて、名刺入れも幾度となく紛失してきたんですが、財布の中に入れ込んで持ち運ぶ方法を発見してから、無くさなくなりました。こっちのLegal Envelopes はパソコンと書類入れとして使っています。そしてたまにここに手帳とかも全部入れこんでクラッチバッグのように持って事務所を出て、お昼ご飯を食べに出かけてそのまま帰りにカフェで仕事をしたりとか。今はどこでも働けるようになって、自由な働き方の人が増えたと思いますが、そういう人には本当に役に立つ物だと思いますよ」

 

ここに挙げた以外にも多数のPOSTALCOアイテムを愛用しているそうですが、デザイナーのマイクさんへの絶対的な信頼があるからこそ、新しい商品は常に試してみたいと思ってしまうそうです。

 

「他にもボールペン、ペンケース、リュック、キーネックレス。あとはトラベル系の収納バッグとか本当に色々持っています。ボールペンが発売された時は衝撃的で、使い心地にも感動しましたし、一番好きでもちろん毎日使っています。全体的に重厚感がなくて軽いバランスでものづくりをされているように思うけれど、時にパーツに拘って値段が高いアイテムもあります。だけどそれこそ、値段も気にせず自分たちがいいと思えるものを真摯に作り続けていることの表れだと思いますし、その姿勢も共感できます」

 

 

 

Hermèsのバッグ

 

 

Garden Party / Hermès

 

「ずっとPOSTALCOのリュックを使っていたんですが、物が入りきらないことが増えてきて、いいものないかなと探していたときに自分の家から出てきたデッドストックのHermèsです(笑)。というのも、実は奥さんが専門学校時代に買ったものだそうで、Hermèsが好きで色々持っている彼女の持ち物の中から見つけました。L.L.Beanも好きで昔から使っていますが、今の自分にはどうしても外しで使っているような見え方になってしまって、なかなか難しいなと思っていたところにうまくフィットしてくれたんです。きれいすぎない・カジュアルすぎないという自分の要望を満たしてくれていて、作りは間違いなく美しい一方、ブランドが悪目立ちもせず程よくカジュアルに見えませんか。ベージュのキャンバスにブラウンのレザーのコンビなのでブラウン系のコーディネートの時に使いたいと考えていたら、何でも合わせやすく、今はどんな色のスタイリングの時にも使います。昔はそうは思っていなかったかもしれませんが、歳を重ねて自分の考え方はやっぱりどんどん変わってきている部分もあって、作りがいいもの、値段が高いものには理由があるのだということを今は理解しているし、高くても本当にいいものだったら自分はぜひ使いたいと思っています。小物は特に頻繁に買い替えたりしないので、そこに値段で制約をかけることは可能な限りせず、本当に良いと思える物ならその価値を理解して大切に使いたいなと、そういうものの持ち方がいいなと思っています」

 

 

 

スタイリングに抜けを出す
白のカットソー

 

 

Light Suvin T-shirt / PHLANNÈL SOL

 

「このライトスビンTシャツは、メインカットソーとしてだけでなくインナーとしても着ることを想定して作りました。肌着のTシャツって、一枚で着たときに心許なくてちょっと一枚で着るには恥ずかしいものが多いんですよ。生地の薄さもそうですしシルエットもタイトすぎたりして。例えばバイヤーだったら展示会場で試着したくて上に着ているものを脱がなきゃいけないときがありますが、そういった時に肌着だとなかなか気恥ずかしい。このTシャツは一枚着でも問題ない、けれどインナーとしてごわつかず快適に着られるバランスを考えて作ったものなので、そういったシーンでも気にせずいられて本当に重宝しています。一般的なものよりはほんの少しだけタイトなサイジングにしているので、インナー使いしたい色はジャストサイズを選び、一枚着を想定している濃いめの色物はワンサイズアップで購入しています」

 

 

「ニットやシャツを着るときに、その下に白や白に近い色を挟むのが自分なりの着こなしの基本です。襟元や裾からちょっとこの色が見えるだけで、自分のシンプルなスタイリングに抜け感が出てくるんです。ニットのインナーに差し込む時に一番感じますが、なんとなく、全体が軽くなりますよね。黒いパンツに黒いニットを着たオールブラックのスタイリングより、裾や襟元からちらっと白系のカットソーを見せるだけで程よく抜けが出ます。このニュアンスカラーって、黒以外にももちろんどんな色にも合わせられます。僕みたいにコンサバなファッションはしないけど、スタイリングに対してコンサバな考えを持っている方には絶対に必要なアイテムなんじゃないでしょうか」

 

 

 

Le Yucca’sのシューズ

 

 

U-Tip Shoes / Le Yucca’s

 

「 Le Yucca’sの靴はメンズシューズの中ではセクシーな部類の形だと思いますが、それをどう履くかというところが重要で、僕みたいにゆったりしていてスタンダードなものばかり着る人がこの靴を履くことで初めてまとまりが出ると自分は思っているんです。服にはもちろんセクシーな要素を全く求めていないと言いましたが、靴は逆にそういう要素が少しあるものを選ばないと野暮ったいだけのスタイリングになってしまう。それもあって、僕はユッカスの靴の中でもちょっとデザインが強いもの、スタンダードから少し外れたものを好んで履きます」

 

どこにいても目立たず自分が心地良いと感じられる服を選びたいというマイルールを持つ一方で、全身がプレーンな着こなしはやっぱりどこか味気ないと感じてしまう。普通のスタイルを、ワンアイテムでファッショナブルに昇華してくれるLe Yucca’sの靴は、ベーシックなアイテムではないけれど絶対に外せない自分のスタンダードアイテムの一つだと話します。

 

「イタリアの職人がハンドメイドで製作している間違いないクラシックな作りに、Le Yucca’sにしかないデザインや考え方、すっと美しいフォルムが合わさった他にはないブランドだと思います。どんなに普通のスタイリングも、これを履けばなんでもファッショナブルにしてくれる。特にデニムとの相性は抜群に良く、自分も本当に重宝しているので、この春夏ではLe Yucca’sのU-Tipの植物タンニン鞣しのナチュラルカラーをセレクトしています。私物はテジューなので革が違いますが、この色はとにかく何にでも合わせやすいし使いやすいです」

 

 

作り手や生産背景に対する理解と敬意。それらを忘れないもの選びの姿勢があってこそ、普通の着こなしを支えるアイテムの数々は、全てが自分自身を高揚させてくれる特別な品となるのでしょう。そしてその満足感があってこそ、洋服に袖を通すことに喜びを感じ、明日も、そして明後日もその洋服を着たいと思い、そんなアイテムの数々が自身の生活に欠かせないスタンダードアイテムとなるのではないでしょうか。

 

「シンプルな洋服を着ていても自分自身が高揚するかどうかの境界線は、やっぱり背景を理解して着ているかどうかということに尽きます。基本的に作り手が何を考えているのかを知ることが僕にとってはすごく大事で、その考えをリスペクト出来るということが、ものを購入する理由になるんです。見た目ももちろん大事ですが、その人がこういう気持ちで作って、こういう風になっていくだろうとイメージして作った洋服を自分が所有し、洗ったらこうなったなあとか、表情がこう変わってきたなとか、その変化を感じられることに楽しさを感じています」

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya