JOURNAL

見たことあるけどどこにもない
- blurhms

駅前の喧騒から離れた静かな住宅街にあるオフィス。お邪魔した私たちをまず迎えたのは、blurhmsデザイナーの村上さんが蒐集する古着の数々でした。
どこに何がしまってあるか分からない程たくさんのストックがあるという古着の山は、村上さんの頭の中に膨大な知識となって蓄積され、blurhmsの服を構成する大切なデザインのかけらとなります。それらが見事なバランスで組み合わさったとき、村上さんの目指す“見たことあるけどどこにもない”というblurhmsの洋服が誕生します。

 

 

 

 

デザインの理由を想像し、
自分の理想を数値化する

 

 

「ここにあるのはだいたいヨーロッパのものが多いですね?それにしてもすごい量ですね。ご自分で着ないものでも資料として買ったりされるんですか?」(柿本)

 

「古着は、資料として見たいものがあれば自分が着ないサイズのものでも全く気にせず買っています。あるポケットの内側の仕様がちゃんと見てみたい、というくらいの理由で買ったりもしますし。古いものって、ディティールとか不思議なものが多いですよね。これどうやって縫ったんだろう?とか、何でここだけおかしな生地の取り方してるんだろう?とか。そういったディティールって、今となってはどんな理由があったのか、本当のことは誰にも分からないじゃないですか、想像するしかない。僕はそういうのを見て、想像するのが好きなんです」。(村上さん:以下、村上)

 

「その感覚、僕はうつわを見るときに感じます。どうやって作ったんだろうとか、火の温度はどれくらいなんだろうとか、ここに灰が被ったんだろうとか、想像するのは本当に楽しいしわくわくしますね」。(柿本)

 

 

「blurhmsの洋服は元々背景があるものをベースに作られているものが多いと思いますが、そうやって実物を見て、作られた背景について想像しながらデザインを考えたりしているんですか?」(柿本)

 

「アイディアを出すときに物を見ながらっていうのは少なくて、ざっくりと今こういうのが着たいなという自分の感覚を頼りにスタートします。そしてベースとなるデザインがあったときに、細かいディティールを詰める段階で実物を見たりします。元ネタがある洋服でも、完全に元のままデザインすることは僕はしなくて、現代的に使いやすいようにモディファイしたりとか、シルエットを調整したり、自分が今着て気持ちいいなという感覚のものに必ずしています。現代では過剰になるデザインを削ったり、このパンツにはこのポケットの仕様の方がバランスが良さそうじゃないかな、と考えて全く別の物からあるパーツを拾ってきてミックスしたり。国も関係なく、例えばイギリスベースのジャケットなのにポケットはフランスのもの、前立てのステッチにはドイツの仕様を、という具合に。そういう時にも、ステッチのラインは自分で絵を描いてそれを忠実にパターンに落とし込んでいます」。(村上)

 

「ざっくりと仕様書を出して、パタンナーさんの感覚で解釈されて上がってきたものに対して、修正する箇所を詰めていったりするデザイナーさんが多いと思うんですけど、そうではなくて最初から緻密に自分の構想を伝えた上で作っているんですか?」(柿本)

 

「そうです。だからファーストサンプルが上がった後に修正することが少ないです。自分がイメージしたものが出来るか、出来ないか、という判断だけなので。トワル※1ももちろん組んでもらいますが、その段階で緻密に数値化して自分の理想を形にします。ここからここまでは何センチ、ここは何センチ、と結構細かな指示を出します」。(村上)
※1 裁断したパターンを仮縫いしたりピンで留め、服のパターンのチェックをするためにトルソーに着せ付ける

 

 

「確かに、別注の打ち合わせをしている時も、数値とか寸法の話が多いですよね」。(柿本)

 

「何センチくらいが柿本さんの好みだろう、という経験からくる感覚が自分の中にあるんです。自分自身も寸法を出してしまう方がイメージがしやすいというのもありますし、その方が間違いなく話が伝わりやすいです。数字って全世界共通じゃないですか。でも、例えばニュアンスで『ここもう少しふわっとさせたいです』と言っても分からないことも多いですよね。ただ、そのやり方が絶対的な正解とももちろん思っていなくて、自分がイメージしていてもその寸法が実際には無理がある数字だったりすることもあるんですよ。その寸法を守りすぎたがために上手くいかなかった形もありました。それを話し合いながら、数字と、実際の感覚を照らし合わせてトワルをチェックして調整していきます」。(村上)

 

 

 

 

気付かれない心地良さを目指して

 

 

思い描いたものを形にするため、緻密に、そして確実に仕上げていくものづくりへの姿勢や情熱は、意外にも村上さんの口から語られることは少ないのだと話します。

 

「素材開発もしていますし、展示会で配布するシートにも生地の説明は書いたりしていますが、デザイン背景のことはあんまり書かないようにしています。純粋にフラットな目で見てもらって、これなんだろうって興味を持ってもらった後に質問されたらもちろんそれには答えたいし、ピックアップしてもらったものを後々調べたりして掘り下げてもらう方が好きなんですよね。あんまり口で上手く自分が思ったことを言えないというのもあって。ものを見て感じてもらった方が早いんじゃないかなと」。(村上)

 

「でも、出来上がったものを見て、自分の意志にはない解釈をされてしまうこともありませんか?そういうとき説明したくなったりしませんか?」(柿本)

 

「言いたくなりますけど、でもそういう時は自分が伝えたいデザインが出来ていなかったんだなって思います。そもそも元ネタがある服だったとしてもそれに気付かれないくらいがいいと思っています。ディティールは色々ミックスしたり、自分の心地良いと思うものに変更して、素材ももちろん変えて、『これ見たことあるけど、なんだっけ?』と思われたりすると、してやったり、って思います。見たこともないものを生み出したいわけじゃないですけど、『見たことあるけどどこにもないよね』っていうものは目指していますね」。(村上)

 

 

「あとうちの服はロックが見えないものが9割くらいなんですけど、こういったディティールも、昔服に興味を持ち始めたときに服をよく解体していて、裏返して見たときの格好良さってあったなという感覚が自分の中にあって。古いイギリスのものとか、洋服に裏地がないものは特に裏を隠せない分すっごい綺麗なんですよね。うちの服も決して安くはないので、服を着たり脱いだり、洗濯に出したりしたときにふと裏が見えて、そういうときにロックとか縫い目が綺麗なものの方が、買ってよかったなって思われるはず。自分は昔そうだったなっていう記憶があるからこそ、そんな誰も気付かなそうな細かいところを気にしています。でもそれも、後ろの始末すごい綺麗でしょ、なんてわざわざ自分では言いたくないんです。別に服の裏側で勝負しているわけでもないですし。もちろんお店のスタッフの方がお客さんに伝えてくれるのは有り難いですけど、自分が展示会で接客をするときには言いません」。(村上)

 

 

多くを語らない村上さんが展示会で説明してくれることは主に素材について。その中でも21SSコレクションを見た柿本の目に留まったのはリネン100%の硫化染めの素材だったそうです。

 

「僕は21SSの展示会を見て、このリネンの素材が何より一番気に入ったんですよね。それでこの素材を使って別注を作りたいなとお願いしました。この素材は新しく開発したものですよね」。(柿本)

 

「リネン素材って、結構隙間があいてしまっているものか、あるいはしっかり詰まりすぎて重いものばかりで、ちょうどいい厚みの、少しとろみのある綺麗なものって意外とないんです。そういった丁度良さを作りたかったのと、あとは少し着古した感じの色を表現したいなと思って。これは硫化で染めたリネンの生地を洗い込んで乾燥機に入れ、そこから裁断して縫製して…という経緯を辿っています。リネン素材はよくノリがついたままの状態で上がってきますけど、それを一回洗って取ってあげると膨らみや立体感が出るんですよね。そして乾燥機にかけることでちょっとぷるぷるとした表情に変わるんです。よく古着屋でリネンのテーブルクロスとか売っていますけど、あれって乾燥機に入れているからあの表情なんですよ。元々はもっとカリっとした感触のはずです」。(村上)

 

 

「夏に履くにはこのとろっとした履き心地は絶対に気持ちいいだろうなと思って。まずパンツの方ですが、これは僕が前回も別注をお願いしたモデル。今回は微調整してもらい、ワンクッションする程度の長さまで丈を伸ばしてもらいました」。(柿本)

 

「裾の折り返しの幅を深めに取ってあげると、生地が若干重さを持つのでクッションしやすくなるんですよ。blurhmsのデニムは3〜4cmくらいとっています。こんなのも、言われないと絶対気付かないですよね(笑)。でも自分が履いたときにそのほんのわずかなバランスがどうしても気になる。そこを誰にも気付かれないかもしれないけど、整えていってあげるということをしています」。(村上)

 

 

どこまでも実用を考え抜いたデザインであっても、過剰さや押し付けがましさのないblurhmsの美学がここにも垣間見られます。

 

「フロントはイギリス軍のパラシュートパンツが原型ですが、お尻のポケットはフランスのM-47のディティールを踏襲しています。ただ、そのまま引っ張ってきたわけではなくて、これもM-47をベースに自分で描いているんです。カーブをちょっと柔らかくしたり、フラップの中のディティールも、自分で全部絵で描いて渡して、パターンを起こしてもらいました。余計なものを削ぎ落としてより現代らしさを表現したかったのと、こうすることでスニーカーだけじゃなく革靴合わせでもいいバランスになります。あとこのパンツに限らずですが、blurhmsのパンツは普通のものよりポケットの袋布が大きいんです。男の人って、訳もなくバックポケットに手を突っ込んだり、財布を入れたり、絶対みんなポケットを使うんですよ。そういうときに心許なくない落ち着くサイズで、物を入れたときに引っかからないような深さを考えて作っています」。(村上)

 

 

「ジャケットの方は、インラインで展開されている形をベースにしていますが、元々はアウトポケットがついたデザインでしたよね。ただ、このパンツとセットアップで着ることを考えると、パンツに特徴的なポケットのデザインがあるのでジャケットの方は削ぎ落としてしまった方が大人っぽいなと。どちらかと言うとカーディガンみたいに楽に着たいイメージがあって、前から見た時のディテールを極力シンプルに出来ないかとお願いしました」。(柿本)

 

 

「柿本さんからの要望は、表のポケットを無くして内側につけたいということだったんですけど、このジャケット着ているときにきっと手は入れたくなるんじゃないかなと思って、このデザインに落ち着きましたね。あとはシルエットを微調整して、インラインのものより長めになっています」。(村上)

 

「はい、ポケットのデザインは村上さんの言う通りにしてよかったです。僕自身、良い素材をシンプルに着たい欲求が常にあって。遊びを入れたいなと思ったら小物かボトムスなんです。ポケットってディティールの中では一番目立つところなので、それはトップスじゃなく足元に近いパンツに持ってきてあげた方が悪目立ちもしないし、いいなと思うんですよね。だから洋服に対して僕みたいな考え方を持っている人には絶対使いやすいものになったと思います。このジャケットだったら、セットアップはもちろん、他には柄のパンツや、本物の軍パンを合わせてもいいですよね。これは洗ったり、着込んでいくとどうなっていきますか」。(柿本)

 

 

「ちょっとずつ退色していくと思います。急激に変化はしませんが、両方とも硫化染めなので白茶けてくると思います。あと家庭で洗うと、乾いたときにもう少しカリッとした表情になるはずです、それを着ていくとまた柔らかくなります。デニムみたいな感じですね」。(村上)

 

「前回好評だったパックTも、今回は長袖と半袖のレイヤードで新色で作ってもらいました。元々は90年代後半のあのイメージだったので長袖と半袖のレイヤードをやりたかったんです。ただこの重ね着ってどうしても子供っぽい着方になってしまうじゃないですか。それを上品に着られたらいいなと思い、リネンのセットアップのインナーに、トーンを合わせてスタイリング出来るように考えた色です。単体はもちろん、カットソーのレイヤードも、そしてジャケットのインナーにも、というレイヤードスタイルです」。(柿本)

 

「このカットソーは超長綿を使っているんですが、超長綿の中でもそこまで光沢が強くないものをあえて選んで、パックTというイメージから離れないようにしています。でも超長綿なので、洗ってもカリカリすることはなく、風合いはほとんど変わらないはずです」。(村上)

 

 

 

 

数値化した自分の理想を丁寧に整える

 

 

見せていただいたのは縮率を計算するためのサンプル。製品染めの生地はタンブラー乾燥にかけて発生する縮みを考慮し製品のサイズを算出します。そこに、縮んだ後の素材の風合いも掛け合わせ、ベストな製品になるよう想像力を働かせます。経験と感覚が必要になる作業です。

 

「生地の縮み方を計算して、目指すサイズになるように逆算していきます。それも、量産の生地とサンプルでは生地の縮み方が変わるんです。全く同じ生地だったとしても。なので僕らは毎回量産反が上がってからテストして染め、それに合わせて縮みパターンを計算して作るんです。失敗することももちろんありますが、経験が頼りになります」。(村上)

 

 

「パックのデザインも長袖に変更しました。60年代くらいのヘインズが元になっていますが、この絵ももちろん自分で描いています。あとパックの素材も、すぐ裂けてしまうのが嫌だったので裂けない素材のものを探し、パックTを入れたときにパンパンにならないサイズで特注したオリジナルです。ノリの部分も、数回は貼って剥がせるようなものに変更してもらったり。せっかく作るものなので、いずれは捨てられてしまうかもしれないけれど、別の用途で使ってもらえたらいいなと思って」。(村上)

 

blurhmsの服を見たときにどう思うか、着たときに知らぬ間の心地良さを感じるか、そして買ってよかったと思うかどうか——。せめて自分が着たときには違和感のないものを作りたいと話す村上さんは、自身が感じる一瞬の違和感を絶対に見逃さず、そしてそれを決して置き去りにすることなく想像の先にある理想の形を目指してデザインをされているのでしょう。

 

「とにかく着た時のバランスはすごい気を使っています。人それぞれ体系も違うので、自分の理想のシルエットが誰にあてがっても出ているかと言われたら、既製服なのでもちろん難しい場合もありますけど、せめて自分が着たときに違和感がないものを作るっていうことを意識しています。ポケットのフラップが少し長いとか、シルエットの落ち方とか、身体を拾いすぎてないかとか、1cm違うだけでも全然変わってくるその印象を、鏡を見たその一瞬で感じて、全体を見たときに違和感がないようにっていつも考えています」。(村上)

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya