JOURNAL

自分のものづくりを続けるために、
自分ができることをやる
- OUTIL

「宇多さんってデザイナーですけど、僕にとっては素材の人、というイメージが強いんですよね。パターンにももちろん拘っていて、立体裁断のものとかも作っているし、そういうものを見ると感動するけれど、やっぱり僕の中では素材の人。だから毎回、新しい生地を見るのが何よりの楽しみなんです。そして今回は、今までで一番僕は心が動かされました。正直、たまげました。この雰囲気の中で見るから、よりフランスらしさを感じてしまうんでしょうけど、これどう見てもビンテージじゃない?っていう作り込みで、これは他の人には出来ないなって強く思いました」(柿本)

 

OUTILの21SSコレクションの展示会が行われたのは、昨年秋に構えたばかりのアトリエでした。その扉を開き一歩中へ入ると、デザイナーの宇多さんが厳選したビンテージ家具が置かれた空間が目に飛び込んできます。そこにあたかも昔からあったかのように自然に馴染んでいるのは、蒐集しているビンテージウェアやOUTILの洋服たち。宇多さんの感性がぎゅっと詰め込まれたその場所で、彼が長年定期的に訪れているフランスという土地の魅力や、そこでのものづくりについて、そしてOUTILというブランドのあるべき姿をお話しいただきました。

 

 

 

 

 

 

誰もやらないことは
思い切り自分がやれば良い

 

 

「たぶん、今回作ったこの生地を作ろうと思ったら、今までもどこかのタイミングではきっと作れていたと思うんですよね。もう何となくはどうすればいいのかイメージは掴めていたので。だけどそれをやろうとすると今度は価格っていうのが問題になってきて、作りたい生地の値段のことを考えると、『やっぱりこれくらいにしておいた方がいいかも』ってリミットを自分でかけちゃっていただけなんだと思います。やっぱりファッションビジネスって、やりたいことだけやって成立したらそれがもちろん理想ではありますけど、どこかで売り上げだったりを気にしてしまうから、怖さもあって。でもこのシーズンのものづくりを始めたくらいから、もうそういう考えは排除してもいいのかなって思えてきたんです。やりたいなら一回作ってみちゃえって思って、それでダメだったらそこで自分が反省すればいいだけだし、って思ったんですよね。そうして作ったものに、反応してくれるだろうと思っていたバイヤーさんたちは、柿本さんはじめしっかり反応してくれて、これでいいんだってようやく思えたんです。なんで今まで悩んでたんだろうって」(宇多さん、以下敬称略)

 

「この素材見た時は相当テンション上がりました。これと、あとインディゴリネンの2つが本当にすごいなと思いましたね。この素材は、新しくフランスで作ったものですよね?」(柿本)

 

「そうです。今、フランスでこれから一緒にものづくりしていこうと思っている場所が2つあるんですけど、そのうちの1つで作りました。ずっとフランスで僕が生地を一緒に作っている男の子がいるんですけど、彼は元々すごく機械が好きで、1890年代から1970年代くらいの織機を色々持っているんです。エンジニアとしてパリで働いていたみたいなんですけど、ゆくゆくは自分の地元に戻って仕事をしたいと思っていたみたいで、その時に自分でやれることは何だろうって考えた時に生地を作りたいと思ったんだそう。自分で場所を借りて、機械を買い集めて、そこに新しく買ったモーターも買ってドッキングさせたりして、動かなくなった機械をメンテナンスして動かせるようにしているような子です。そんな彼が僕のことを誰かから聞いたようで連絡をくれて、僕も他の人から彼の存在をその時聞いて、縁があるのかなと思って彼に会いに行ったのが始まりです。持っている機械を見せてもらったら、これを使ったらきっと面白いものが出来るぞと確信しました」(宇多)

 

 

「その彼とは、宇多さんがフランスに行く度に何か資料を見せたり、作りたい生地を共有したりしているんですか?」(柿本)

 

「いろんな資料を見せたり、日本だとこんな生地が織られているとかを伝えたり、僕はこういうニュアンスの生地が織りたいんだというのを一緒に話し合います。このペッパーソルトに関しては、僕が今日本で織られているものの中にピンとくるのがなかったんですよね。それは何でだろうと考えていたときに、チラチラした模様はすごく再現できている反面、ビンテージにはある凹凸感とか立体感がないんじゃないかなって思って。そこから、じゃあ凹凸感を出すためにはどうしたらいいだろうというのを彼と一緒に考えていきました。結局この素材は、縦がコットン、横がリネンになっています。何段階か実験してみましたが、これが一番僕が思う1940年代の生地の魅力を再現できているかなと思っています。織機も実際40年代の織機です」(宇多)

 

「コットン×コットンだとこの感じにはならないんですか?」(柿本)

 

「それだともうちょっと、触った時の凹凸がなくて何というか、のっぺりします。この生地って横に節があるじゃないですか、これが縮率差とかもあるんですが麻特有のもので、これがないともうちょっとフラットになりますね。不思議なもので、僕も細かくは分からない部分もありますけど、使う織機でこれだけ変わるんだなっていうくらいは、雰囲気は変わりますね」(宇多)

 

 

「本当に、この立体的な表情が良いですよね。些細な違いなのかもしれないけど、他にはないなって思いました。これは自分たちが知っているようなシャンブレーのように、経年によって色がライトグレーのようになっていきますか?」(柿本)

 

「ちょっとずつ、特に黒い部分が褪色していきます。あとコシが抜けていく感じですね。光沢はもしかしたらもう少し出ていくかもしれないです。製品洗いをかけているので、裾の部分とかすごいパッカリングの表情はすでに出ていますよ。デザインのベースは1940年代くらいのいわゆるマキニョンコートと言われる部類のものですね」(宇多)

 

 

「このポケットの形は後からデザインしたものじゃなくてもともとのディティールなんですね。面白いですね。普通は胸ポケットとかについているイメージがあります」(柿本)

 

「確かにそうですよね。カバーオールのポケットとかにはたまにあるけど、結構この形は珍しいと思います。ポケットのカーブもすごくエレガントなんですよね。あとは襟のトップも小さなボタンが付いていて留められるようになっています。これ僕は結構好きな仕様で。普段は古いものをベースにしていても気になる箇所をデザインで修正する方ですけど、このコートに関しては僕の中では比較的デザインしなかったデザインです」(宇多)

 

 

「そこから僕のお願いで変えてもらったのが、貫通ポケットを無くしてもらったくらいですよね。僕本当によく、ポケットと間違えて携帯を入れて落とすんですよ(笑)。パンツの方のデザインは何がベースになっているんですか」(柿本)

 

「インディゴリネンの古いものを僕が気に入ってよく履いているんですけど、推定ワークのオーバーパンツで、誰も何も詳細が分からない珍しいものがあって。おそらく炭鉱か何かだろうねって話してるんですけど、それをベースにしています。そのパンツのお尻のパターンが特徴的で、股上がいわゆるサルエルパンツのような深さなんです。自分はサルエルパンツってさすがに履けないなって思っていたんですが、でも私物のものは抜群にシルエットが綺麗で、落ち方が面白くて、これだったら履けるなって思ったんですよね。ポケットはついてなかったのでつけましたし、気になる部分はもちろん細かく修正はしているんですけど、ほぼこれもオリジナルに近い形で忠実に作っています」(宇多)

 

「そう、シルエットがすごい好きで、これセットアップだと良いなと思ってコートとパンツを同じ素材でお願いしたんですよね。でもフランス生産がこの状況で安定せず、パンツだけちょっと先になってしまいそうですが、でも楽しみです」(柿本)

 

「今本当にフランスの布帛に関しては以前より工場を絞っています。今まで自分が現地に行ってない状況で上手くいった試しがないので、不安な部分を感じます。デザイナーや企業の企画職の方でも、現場にほとんど行ったことがない人もいると思います。それでも、ものづくりをしようと思えばできる環境に今はあると思うんです。でもやっぱり僕は会いに行って、見て、話をしないと信じられないから、自分のものづくりに責任が持てないです。日本でもそうだし、フランスなんてもっと見ていないと不安です(笑)」(宇多)

 

 

 

 

2年後の自分が出来ることを見据えて

 

 

「僕今回のOUTILのコレクション、特に気に入ったのがこの素材だったわけなんですが、これが作れてしまったら、次のコレクションはどうなるんだろう?超えていくのは簡単じゃないだろうな?って思ってしまいました」(柿本)

 

「そうですよね。でも僕は常に、2年先の僕が出来ることっていうのを考えた上で、今これがしたいってことを考えるようにしてるんです。もちろん現時点で出来ることを80%くらいしか見せてないってことではなくて、現時点で出来ることは100%やっていますよ。ただ、今の僕がそれをやろうと思っても、まだそこまでのものを求められるブランドに成長できていないと思っています。だから2年後にOUTILが成長して、やろうと思っていることを実現できるブランドであるために、今の自分が出来ることをやっていこうって思います。そして僕はオリジナルに忠実であることは求めていなくて、自分の解釈をもって良いものを作りたいと考えています」(宇多)

 

今回の素材がそうだったように、生地の生産にかかるコスト、売り上げ、世の中の流れや様々な外的要因を気にすることなく、自分が信じるものを信じ、自分が作りたいものを思い切り作り上げてみるというスタンスを貫けたのは、何故なのでしょう。

 

「僕の場合、本当に洋服じゃなくてもよかったんだと思っていて、自己表現の方法は何でもよかったんです。今はなんだか、情報がすごい先行して、イージーなものづくりで、売り方がこれまでとはすごい変わってきてるじゃないですか。僕はプロダクト自体が、結果として人の心を動かせているならそれが理想だなっていう気持ちです」(宇多)

 

 

 

 

“背景”を育てることの意味

 

 

ものづくりに正直であるために宇多さんが大切にしているのは、作っている現場に足を運ぶこと、使っている素材を自分の目で確かめること、作っている人とコミュニケーションを取ること。そしてものづくりをする“背景”を自分で作っていくことだと話します。その真意について伺いました。

 

「先ほど話をした、フランスで一緒に生地作りをしている彼には、OUTILのものに関しては僕の要望を伝えますが、他にも、彼には彼のプロダクトがあるので、それに関しては『こういうの作ったら?』という意見は伝えたり、自分が持っている少ないながらの知識を共有するようにしています。というのも、今は彼が一人でやっているので、もし彼が事故に遭ったら彼がやっているものづくりはそこで終わってしまいますよね。だったら彼が従業員を雇える状況を作らないといけないなって思っていて、そのためには、僕が使うのではなくてもどこにでも売れるような良い生地を彼に織ってもらって、それを売ってもらえたら、それによって彼が従業員を雇えるかもしれないですよね。仮に3人雇えたら、もうちょっと彼自身も出来る幅が広がってくるし、じゃあ今度はこんなの一緒に作ろうよっていう挑戦もできる、そういうのを目指しているんです。ただ、そこで今度はヨーロッパの限界も見えてきて、やっぱり日本は原料がすごく恵まれています。欲しい糸があったとき、ヨーロッパではもう作っているところが見つからないんです。フランスの工場が潰れてしまった、スペインを使おう、今度はスペインが潰れてしまった、次どうする?ということが続いています。日本も厳しいですが、でもものづくりはまだ生きていて、ものが作りやすい環境だと実感します。でも今回のような素材を作ろうと思っても作れないのが不思議なものですよね。日本の優れた産地で同じような織機を使って織っても、きっとこうはならない。そういうのってやっぱり、“その土地”とか“その機械”、“その人”が作るものだなって思います」(宇多)

 

「若い彼と一緒にやっていこうと思ったように、“背景”を育てようと考え始めたのはいつ頃なんですか?」(柿本)

 

 

「OUTILをやる以前からフランスに関わりながらものづくりをしていたんですが、初めてフランス生産のプロダクトをリリースしたのが2008年だったと思うんです。そのために確か1年くらいフランスで工場探しからはじめて、サンプルを何回か作って、製品をリリースしました。その後の5〜6年で、フランスにある取引先が廃業していくのを沢山経験しました。その度に僕たちは作る場所を変えなきゃいけなくなったりして、ものが届けられないという状況もありました。それって決してフランスだけの話じゃなく日本でも同時に同じことが起こっていますよね。だから、自分がそれらの取引先や工場を守れるような状況を作らないと、いつか自分がつくりたいものは作れなくなるっていうことをずっと考えていて。そのためには、自分が大切にしたいものづくりの背景を育てて残していくこと、そして発注量を安定的に増やして彼らの為になるような仕事をすること、その二つを心がけています。僕だけの発注量だと申し訳ないですが今はそれが難しいから、そのために、どういうところにも売れる良い生地を作ることを一緒に考えていけたら、結果的に彼らは残っていける、ということは自分のものづくりも残っていく、って考えています」(宇多)

 

 

 

 

小さな村でのささやかな会話を楽しむこと

 

 

飲食業界にも友人が多いほど、ナチュラルワイン好きとしても知られる宇多さん。フランスに訪れるようになってから、そういった食文化にまで魅了されていったそうです。そんなフランスという土地は、もはやものづくりのベースとなるだけではなく、自分の体調や気持ちを整える場所として存在するほど大切な場所だと話します。

 

「年に数回フランスに行くことで自分の体調を戻したりとか精神状態をフラットに出来ていたと思っています。
取引のある工場はパリから遠い地方にあることが多く、長い時間ドライブするんですが、身体は疲れきってしまうおかげでちゃんと早く寝ます。それで朝は早くに目が覚めてランニングして、打ち合わせをして、健康的に食事をして、そして健康的にワインを楽しんで、その繰り返しなんですがそれが心地良くて。東京でワインを飲んでいてももちろん美味しいですけど、フランスにいくとその景色とか田舎の風景、取引している人やその小さな町や村にいて知り合った人々との触れ合い含め、その空気で自分がフラットになっていくのかなって」(宇多)

 

「フランスでリセットされるその感覚は、そこに懐かしさや故郷を感じるからですか?それとも旅人として行く、異国感がリフレッシュなんですか?」(柿本)

 

「すごくそこ難しいかもしれないです。やっぱり以前はずっとフランスは異国だと思って行ってたんですけど、今はその中でも限られた地域には落ち着くという感覚を持つんですよ。好きな町があって好きな店があって、そしたらそこに集まる人たちがいて。好きな場所に集まる人って、自然と同じグルーブを持ってたりするんですよね。そこに落ち着きを感じるのかもしれません」(宇多)

 

 

「僕のすごい好きな村がジュラという地方にあるんです。その地方のとある町に、朝8時に開いて夜8時に閉まるサロンみたいなお店があるんですよ。そこはワインの産地なので、ワインの作り手さん達がその店によく来るんですけど、朝はコーヒーを飲みにきて、そこから野良仕事に行くんです。それでお昼になったらみんなその店に帰ってきて、みんなでランチを食べるんです。色んな世間話をして、それでまた2時くらいに仕事行く。夜6時くらいになったらまたそこに帰ってきて、アペロして、夜の8時にみんな家に帰ってご飯を食べる、そんなお店です。そこがすごく好きなんですよね。何度目か、結構な距離をドライブしてそこに行き着くと、店のマダムが『また来たのね』と話しかけてくれるようになりました。僕の場合そんなにフランス語が分からないし、英語でコミュニケーションとっちゃうこともあるし、そうすると通じてない話とかも結構あるんですけどそこに寂しさとかは感じなくて、本当にちょっとした触れ合い程度の会話が楽しくて」

 

 

小さな村だからこその人の温度のあるコミュニケーション。何度も訪れるようになると次第に知っている人も増え、皆がOUTILのInstagramを見てくれて話しかけてくれるのだと、楽しそうに話を続けます。

 

「知り合いから聞いたのか、『もしかしてあなた日本のデザイナー?』という感じで色んな人が話しかけてくれるようになりました。OUTILのインスタグラム をチェックしている方もいて、『私このワンピースがどうしても欲しいの!』とか色々伝えてくれるんですよ(笑)。『私野菜作ってて購入しても野菜と交換でもよいから、今度あれを持ってきてね』と言われたり。こないだなんかたまたまその大好きなお店の10周年のお祝いのときに別件のミーティングで居合わせたことがあったんですよ。ジュラの錚々たるワイン生産者もみんないて、わいわいとやっているその状況を見て、僕なんてただ1年に3、4回行くだけの人なのに一緒にお祝いできるってなんかすごくいいなって思って。そういう時って、滅多にないですけどすごく心が揺さぶられるんですよね、涙出そうになっちゃって、こういうプレゼントみたいな瞬間があるから、ずっと同じようなことを続けてきて良かったなと思うし、こういうことがものづくりともっとリンクしていけば面白いなと感じた出来事でした。そういう人たちと物々交換で生活が成り立っていくと理想的だなと思いますね」(宇多)

 

2020年の秋冬からはぶどうの木を使った染色にも挑戦し、美しい色彩のコレクションを発表していました。そのプロダクトも、やはり繋がりのある人によって支えられています。

 

「植物の染めを色々やってみてその途中から、原材料が何かっていうのを自分が分かる範囲でやりたいって思うようになりました。まず、染めている場所が岡山だったこともあって、岡山にある桃の木の剪定された後の捨てられる枝と、美観地区の剪定された柳の木の枝を使ってやるようになりました。もともとワイン好きだったからぶどうの木を使うことも考えていたんですけれど。そんな中で友人の紹介でこれからワイナリーを始める遠藤さんっていう方を紹介してもらいました。一緒に食事をして、その流れで自分がやりたいことの話をポロっと言ったら、すぐにぶどうの枝を送ってきてくれたんです。それが始まりだったので、もし遠藤さんに会ってなかったら、今もぶどうの染めはやってなかったかもしれないですね」

 

 

「原材料は、自分の周りにいる人から調達するっていうのが一つの理想です。“この人のこれだから、この色になる”っていうところの表現や、個人的に繋がりのある人の大切に育てたものの廃棄される部分を頂いて染料にするっていう循環がいいなと思っていて。そしてこれからはより一層、その循環が周りの人や社会のためになるような仕組みを作りたいと思って、その方法を模索しています」(宇多)

 

当たり前のことが出来ていない自分がいるからそれをやるだけです、と軽やかに笑顔で語る宇多さん。誰がその生地を作っているのか、誰がその生地の染料を作っているのかまでを自分で見届けることをやめないその姿は、人として当たり前にある本来のコミュニケーションを、ただ当たり前にやっているだけなのでしょう。OUTILのプロダクトに触れると、フランスのその小さな村のコミュニケーションの温度が、確かに伝わってくるように思います。

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya