JOURNAL

解釈はいくつもあっていい- KaILI

「KaILIの始まりを話すと幼少期からになってしまうんですが、僕は工作が好きな子供だったみたいで、放っておいたら何か作っているような子供でした。『お腹すいた』と言って部屋から出てこないときは大体何か作っていたとよく言われます。だから今の仕事も、思い返すとその延長なのかなって思ったりもしています」(山内さん、以下敬称略)

 

幼い頃からものを作ることに興味があったというKaILIデザイナーの山内さん。普段の生活に対しても、自分の作るものに対しても疑問を持ち続け、『何故?』ということを突き詰めて考える姿勢はデザイナーというよりも研究者のようです。そんな山内さんとオンラインでお会いし、ものづくりのことやKaILIのコンセプトに込められた想いについてお話を伺いました。

 

 

 

 

機能や仕様に意味を求め、
その意味を問い続ける

 

 

工作が好きだった幼少期から一転、高校卒業までをラグビー一色で過ごしたと話す山内さん。その後は大学、大学院と進学し、自分の将来について考え始めるようになったとき、再び思い起こした感覚が、生活に近いものを作ることだったそうです。

 

「僕も周りの多くの人と同じように、自分の将来のことを考えなければならない時期になりました。就職活動をしていく中で、自分は生活から離れたものを開発したり作る仕事になかなかピンとこないなという感覚がありました。そんな中で、就職活動のポータルサイトなどを見ていたときに兵庫県の豊岡という街の鞄メーカーを見つけたんです。専門卒でなくても採用してくれるということで、素人でも学びながら働かせてもらえるなんて有難いという気持ちでそこに応募しました」(山内)

 

「小さい頃からの興味がそこで一つ繋がるわけですね」(柿本)

 

「その会社に採用が決まって、ミシンの基本的な使い方、生地の種類や裁断の方法や革加工、あとはパターンなど一通りのことをその会社で教わりました。今のブランドの基礎を作る貴重な経験で当時お世話になった方々には感謝してもしきれないのですが、結果2年弱ほどでそこを退職しました。理由は色々あったと思うんですが、ひとつは仕事をする中で、もう少し自分がやりたい何かがあるはずだなという感じがあって。少し焦っていたのでしょう。その頃から自分でミシンを買い、ある程度自宅で作れるような状態にはしていました。今も作っている“GAME POCKET”の原型は、その頃にはもう出来ていたんです。会社を辞めたのは26歳の年末でした」(山内)

 

「それで27歳のときにはもうKaILIをスタートさせていたんですね。その時からコンセプトは決まっていたのですか?」(柿本)

 

「会社を辞めて福岡に戻り、友人の鞄を作ったりしながら少し今後のことを考えようと思っていた頃、地元の幼馴染みがちょうど近くに住んでいて、WEBデザイナーとして活動していました。そして、もしブランドを始めるなら、まずはコンセプトをしっかり決めて、先にサイトを作ってしまった方がいいと助言してくれたんですよね。そうじゃないとぬるぬるっと始めてしまうことになるし、ぶれてしまうから。そんなこんなでその友人と一緒にコンセプトを考えることから始めて、サイトを作って写真を撮って商品を載せたりして、KaILIがスタートしました。その友人がそばにいなかったら今のKaILIはないでしょうね」(山内)

 

「そのコンセプトにはどんな想いが込められているんですか?」(柿本)

 

 

「前に勤めていた会社はOEMを中心にやっている工場だったんです。そこでは、相当なラインナップのある製品の中から、生地を変えたり、ちょっと仕様を変えたりして新しいものを作るようなこともしていました。ものづくりは先人が遺したものの上に成り立っていることは間違いないので、それ自体が悪いわけではないとは思うんですが、ただ安直なやり方は自分の中でしっくりこなくって、そのときにもやっと感じたことをコンセプトにしているんです」(山内)

 

「考えがないまま作っていることにフラストレーションが溜まったというか、もっと意味のある機能とか、そういったものを作りたいと感じたということですか?」(柿本)

 

「そうです。上辺だけ繕ったデザインとか、飾りのようにつけられた機能とか、そういったものに対する反発で始めたというところがちょっと大きいのかもしれませんね」(山内)

 

 

 

 

デザインではなく、設計をするのが
自分のやっていること

 

 

こうしてスタートしたKaILIのバッグは、ひそやかに配置された機能の数々とは裏腹にとてもシンプルでさりげないデザインが特徴的です。一見すると普通の、あるいはローテクな昔ながらのバッグのようでいて、素材選びやディティールのデザインにギミックや不思議な仕掛けが満載なのです。そのデザインの成り立ちについて伺いました。

 

KaILIブランドサイトより(それぞれの鞄のコンセプトを図解したピクトグラム)

 

「KaILIのラインナップで言うと、“GAME POCKET”のシリーズがそうですが、鞄のポケットって、安直に言ってしまえば厳重であればあるほどいいですよね。本来は安全性が求められていると思うんですけど、“GAME POCKET”のオープンポケットにはそこに違う価値が見出せないだろうかという考えが反映されています。例えば防水という定義もあやふやじゃないですか。ファスナーさえ止水だったら安全なのかって言ったら難しいところがあるし、売り文句と仕様がちょっと乖離しているような感じもある。だからもうちょっと作り手目線でも、使い手目線でも、何でここがこうなっているんだろうとか、ここをこうしたら別な使い方ができるなとか、それくらい考えの幅や余裕のある自由なものづくりがしたいと思ったんですよね」(山内)

 

 

「ものが出来上がるまでの過程に対して、小さい頃から自分で考え、その考えを自分で体現していたからこそ、そういった今の山内さんの姿勢が自然と構築されていったんでしょうね」(柿本)

 

「自分のやっていることがデザインとはあまり思っていなくて、デザインというよりも設計をしている感覚に近いです。鞄という外枠の中で目的のために必要な仕様を足し引きしていって、そして最終的に上手く外見のバランスをとる、そういう作業ですね」(山内)

 

「本当にそうですね。極端なデザインなんてしていなくて、シンプルなことをやっているのに、細部を見ると『あれ?これはなんだ?』というすごいパーツが出てきて、使い手としては、これをどうやって使うんだろうと考えるところから始まるわけですよね。僕もバッグは色々見てきたと思いますけど、でもやっぱり人と視点が違うなと感じるんです。そしてその機能のどれもが、意外と生活に根ざしているなと感じます」(柿本)

 

「そうですね、基本的には自分の身近な範囲でしかものを考えていません。発端は、自分の身の回りのちょっと気になることとか、なんか少し違和感があるところとかを見つけ出してそこから自分を先導していく感じで、その疑問点を何かの鞄の形にする、みたいな作り方をすることが多いです。ただの趣味なんです(笑)」(山内)

 

 

 

 

 

前に出てこないから、良い

 

 

今回別注した“TRANSFORM BAG”と“ACTION BACK ROLL”に使用したのは古いドイツ軍のテント生地。普段使用されている機能的な素材に対して少し距離のある立ち位置にあるような素材ですが、ブランド設立当初からずっと使用されているのだそうです。

 

「どちらかというと素材は表に出過ぎていないほうが良いと思っています。だから古いものの雰囲気が全面に出て欲しいわけではないんです。ただあのテントを最初から使っている理由は、それがテントの表生地ではなく裏側だからですかね。迷彩側じゃない、裏側です。さらにドイツ軍のテントって目の詰まったただのコットンの生地のように見えるんですよね。例えばアメリカや他の国のものはもっと素材感が荒く、所謂ヴィンテージテントといった表情です。それに対してこの生地はそこまで古いものではなくて、2000年代のものも混ざっています。古くないから、雰囲気が出過ぎなくていいなという印象なんです」(山内)

 

 

「僕はこの“TRANSFORM BAG”に関しては、面が大きいからか、もともと使っていたナイロンの素材の印象が強く頭に残っていたのかもしれません。だから、展示会でこのバッグのデザインにテント生地が用いられているのを見たときに、それこそ意外性を感じて無意識に惹かれたんだと思います。あと僕個人的には、古いものはすごく好きなんですど、リメイクアイテムに対してはもともと少し抵抗感があるんです。カジュアルな見た目になりすぎたりわざとらしさを感じてしまうからなのですが、今回のバッグに関してはすごく上品さがあり気に入っています。もちろんカジュアルなスタイルに合わせてもいいと思いますが、僕はシャツをちゃんと着たり、少しカジュアルなセットアップに外しで持ったり、そういった使い方をしたいなというイメージが湧きました。ちなみに、この“TRANSFORM BAG”のデザインのイメージやコンセプトはどこからきていますか?」(柿本)

 

 

「考え方としては、“NOT COMPACT ECOBAG”と一緒ですね。レジ袋有料化に伴いエコバッグが必要になり、市場はエコバッグで溢れていましたが、小型化や軽量化、収納、展開の容易さの一辺倒でした。KaILIでは別な角度から提案ができないかなと思い、普段使っているバッグがエコバッグに変化するという前提を作ったのが発想の始まりです。そのためには容量が増える必要があって、そして容量を増やすためにどんな手段があるかと考えたときに、エキスパンダブル機能と呼ばれる、マチのファスナーを開くことで容量が増える仕様が一般的ですが、もっと原始的で、一見容量が増えることが分からないような仕組みがないかと考えました」(山内)

 

 

「その答えが、口を外に折るということ。そしてトートの状態もショルダーの状態も両方とも成立させるためにはステッチが外に出てきてはだめなんです。一方で強度も取らないといけない。そこで、ステッチを外に出さずに強度を保つ方法として、生地を二重、場所によっては三重にしています。これは強度だけでなく使い方に対しての答えでもあるんですが、プライベートのものを鞄の中に入れていて、買い物をしてエコバッグとして使いたいとなったとき、買った野菜やお肉と、普段使っているものが同じ袋に入ることが僕は嫌だったんですよね。だから別の層にそれぞれが入ればいいなと思い、この二重の層ができました。ショルダーバッグにしたとき、この層の部分のずれがデザイン上のアクセントにもなりますしね。このデザインは意識したものというより設計する上で偶然で生まれたものです」(山内)

 

 

「なるほど。本当に、迷子になるくらいギミッグが満載ですね。そしてこの取手の付け方が、ヘルメットバッグみたいじゃないですか。偶然なのかもしれないですが、それがこのテントの素材感とも上手くマッチしているなと感じました。“ACTION BACK ROLL”のほうはどうやってできたんですか?」(柿本)

 

「これは“GAME POCKET”の派生で生まれました。“GAME POCKET”の上がロールトップだったらバランスいいかなとはずっと考えていて、無理やり上に付けてみたところからですね。メッセンジャーが使っているようなロールトップって簡単な作りで出来ているので、横が直線になっているものが多いと思うんです。それに対してこちらは一度くびれて逆台形のロールトップがついています。だから巻いたときにハチが張らないのでカジュアルに見えすぎないのかなと思っています」(山内)

 

 

「僕は最初にこのテントの素材でリュックをお願いしたいなとアイディアが浮かびながら、KaILIのバッグを一通り背負ってみた時、 “ACTION BACK ROLL”が一番綺麗な形だなと感じました。横から見たときに、他のものはいわゆるデイパックらしい四角い形が際立つんですが、これは首からの傾斜がすごい綺麗で、一番品がありました。だから僕はロールトップの機能性とかよりも、見た目で選んでしまった感じではあります」(柿本)

 

 

「だからより綺麗な形で使ってもらうためには、ロールトップのバックルやサイドのアジャスターをしっかり絞ってもらったほうがいいですね。ロールトップの部分は、荷物が多いときには便利ですが普段は後ろについているジップからショートカットで十分かなと思います」(山内)

 

お話を伺う中で多く出てくるのが目立たなくする、シンプルにする、そして考えるという言葉。様々な要素をシンプルな形へと着地させる山内さんの作るプロダクトには、そんな言葉に凝縮される山内さんなりの美学や、独特の視点が込められています。

 

「KaILIは、付随する機能がデザインとして全面に出ておらず後ろに下がっていますね、それはどうしてですか、と聞かれことがありました。その時は僕の性格ですかね、と曖昧に答えたと思うんですけど、今考えてみると、僕自身がそういうものに興味があるのだと思います。見た目がすごくつるんとしているのによく見るとここちょっとおかしいぞというものに興味が湧くんです。古道具屋やリサイクルショップに行くと使い方が分からない不思議なものとかありますよね。もれなくうんちくや説明がついてくるようなものより、全体が掴めない用途がはっきりしていないもの、それらに惹かれてしまいます。だから自分が作るものも、一目見て全部が分かるものより、答えを与えすぎずに入り込んできてもらう(と言うとエゴがありますが)、そうやって興味を引き出せるようなものを提供したいと思っています」(山内)

 

 

「でも確かに、それがKaILIですよね。機能性がものすごく考えられているけど、デザインとしてそこが押し付けではなくて、控えめですもんね」(柿本)

 

「あとKaILIですごく大事にしていることがあって、あのコンセプト文が憲法だったとすると、僕は憲法解釈をずっとしているみたいな感じなんですよね。いい表現が見つからないのですが(笑)あの文章を色んな風に解釈してみて、色んな方向から見てみる。そうすると、なんか違った捉え方が見つかったりするかもしれないなと。今のはコンセプトに関してですけど、鞄に対しても、あんまり一方行にしか捉えられないようなものは作りたくなくて、だから自分が意識していなかった鞄の使い方を見ると内心ドキッとしています。その手があったかと。
前に取引先のお客様とお話しする機会があって、その人は普段の仕事があまり創造性のない仕事だと自分でおっしゃっていて。そんな方がKaILIのバッグを見たときに、『自分の仕事ってつまんない、もっと自由にやりたい』って思ったということを話してくださったんです。その考え方はその人に元々潜んでいたものだとは思うのですが、今まで全く意識していなかったものが急に気になってくる瞬間ってあるじゃないですか。頭の中に急にメモリーが増える感じ。そういったものの見方や考え方を変えられるきっかけになるようなものを作りたいというのが一番深いところにある思いです」(山内)

 

KaILIのバッグには、機能の詰まった優秀なプロダクトとしての存在価値だけではなく、それを持つ一人ひとりの価値観や考え方、ものごとへの向き合い方を常に問い直してくれるパートナーとしての存在価値があるのでしょう。

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya