JOURNAL

ブランドが示す“新しい価値”- NICENESS

今シーズン、BLOOM&BRANCH として初めて別注アイテムの制作をご依頼させていただいたNICENESS。デザイナーを務めるのは国内外で数々のブランドに関わってこられた経験を持つ郷 裕一氏。これまでの経験から得た知識を引き出しに詰め込み、それを一つひとつ開けて確認しながら紡がれ、積み重ねられてゆくコレクションには、ブランド設立から多くのファンが魅了されています。そんな郷さんへの特別インタビューとともに、BLOOM&BRANCHディレクターの柿本とのセッションで誕生した別注トラウザーについてご紹介します。

 

 

 

 

Interview with Hirokazu Goh

 

 

―NICENESSを立ち上げるに至った経緯を教えてください。

 

「NICENESSは単純に、自分が思う良い洋服というものを通して“新しい価値”を創造したくて始めました。ちょうどNICENESSを始めようとしていた頃に、『この服いいな』『新しいな』と心から思えるものが見当たらなかったので、自分で挑戦してみようと思いました。NICENESSのコンセプトである“Just good is good(イイものはイイ)”は、そんなところからきています」

 

NICENESS 21AW Collection(ブランドサイトより)

 

―服作りのインスピレーション、その時作りたいもののムードやシーズンテーマなどはどこから着想を得ていますか。

 

「作りたいプロダクトのイメージがまず最初に湧いてきます。生まれてきたそのイメージから実際にプロダクトとして形にしていくプロセスの中で、コレクション全体のムードやテーマが見えてくる感覚があります。コレクション制作は、これまでに自分が見てきたり触れてきた様々な物や文化から得たものづくりのタネになるようなアイディアを、自らの引き出しを開けて探していくような作業です。自分自身、次に何を作りたくなるのか分からないところも楽しみながらコレクションを積み重ねています」

 

―古いもの・文化への見識の深さが際立つ郷さんですが、これまでのファッション遍歴や、特に影響をうけた出来事などはありますか。

 

「中学生くらいから音楽の影響もあって古着に興味を持ち始め、当時は特にミリタリーのアイテムに関心がありました。そのうちにロンドン・パリ・ミラノなどのコレクションを見るようになって、ハイブランドやメゾン特有のカルチャーへの関心も強くなっていきました。17歳くらいには漠然と『オートクチュールをやりたい』という思いを抱くようになってドレスの学校に入りました。古着、ミリタリー、デザイナーズ、オートクチュールなど、様々なものに興味を持っていました」

 

NICENESS 21AW Collection

 

―今、一番興味のあることはどんなことですか?

 

「身体を動かすことでいえば、ここ10年くらい水泳を続けています。頭も気分もすっきりするので、欠かせない趣味と言えるかもしれません。他には、自宅のインテリアをどうしていこうか、ということはずっと興味があることです。過ごしやすさと使いやすさを両立させていくことを考えながら色々と試しています」

 

―NICENESSとして、表現することにおいて大切にされていることはありますか。

 

「NICENESSでは服の力で価値を生み出すようなアプローチをしています。言葉だけでは共有できない感性や感情を、アイテムを通して受け取ってもらいたいと考えています。NICENESSのアイテムを実際に見たり、触れたり、袖を通したりすることで受け取る印象やインスピレーションというものを大切にしてもらいたいと思っています。SNS上で商品説明のテキストを記載したりもしていますが、こちらから多くの言葉を使ってブランドの表現をしてしまうことが受け手の感情を制限することにならないよう心がけ、アイテムと受け手の間にそれぞれの関係性を築ける余白を残すようにしています」

 

―今回の別注アイテムの制作にあたり、拘ったところやご自身で新しさを感じたところはありますか。

 

「AW21シーズンの展示会で柿本さんに商品をご覧いただき、数ある生地の中でも綿 / ヤクウールの混紡糸で作ったデニムを気に入っていただきました。この素材を使って何かできませんか、というご依頼だったのですが、まず生地の特徴として、やはりウールならではの毛羽感が魅力です。ただ、ヤクウールを使用していますので、肌に当たっても不快に感じない滑らかさがあります。一度生地洗いをかけることで凹凸感も出ていてとてもこなれた印象になっています。そしてデザインはノータックのシンチバック仕様です。NICENESSのボトムスは基本的には大振りなシルエットのものが多いのですが、AW21ではクラシカルなスラックス型をデザインしており、その型にこの生地をあてるのは面白いと思い、提案しました。一般的にクラシカルなスラックスではサイドアジャスターが主流ですが、シンチバックへ変更することでワークウェアの要素を取り入れています。生地とデザインの組み合わせがいい塩梅で、面白いデニムスタイルが出来上がったと思っています」

 

 

 

 

 

フレンチムードの漂う
大人のセットアップスタイル

 

 

「これまで色々なデニムを見てきた中で、ヤクを使ったものは初めてだったので純粋な興味がまず沸きました。そしてその試みに対してのリスペクトの意を込めて別注を依頼しました。コレクションの全体を見て、デザインの方はシンチバック付きのパンツが良いなと思ったのですが、テーパードを緩めてワイドな形にすると、さらに今履きたいものになるかと思い、形の修正を含めて依頼しました」

 

 

「この綿 / ヤクウールの生地を使ったリバーシブルのGジャンがNICENESSのインラインで展開されていて、そのリバーシブルの素材両面に合わせてセットアップでスタイリングできることも想定しています。パンツのポイントとなっているシンチバックや、ベルトループの生地を置き換えて配置することで、ジャケットの両面と合わせて着ていただけるようにしました。形については郷さんの説明にもあったようにフレンチベースのクラシカルなスラックス型なのですが、そこからテーパードを少し緩やかにしてもらうことでよりワイドシルエットに近づけました。NICENESSの中でもきれいめな印象のデザインを少しワークっぽく調整した形ですね」

 

 

「ウエストが大きめのNICENESSらしい形は活かしているので、ウエストをギュッと絞って履いていただくものです。その際にヒップ周りに出てくるだぼっとしたシルエットは、全体をワイドにすることで少し軽減されてすっきりとした印象になっています」

 

 

「硫化で染めた素材は洗いをかけることでだんだんとフェードしていくと思うんですよね。リーバイスのブラックデニムとかと同じように、どんどんグレーに近づいていくと思うんですが、その表情がまたきっとすごく格好いいんだろうなと想像してわくわくしています。グレーに落ちていくごとにカジュアルな印象には近づいていくだろうと思うので、個人的にはきれいめな印象のスタイリングにしたく、黒からグレー、あるいは白を使ったトーン合わせのスタイリングを想像しています。ジャケットとのセットアップ、レザーシャツを合わせてダークトーンのスタイル、スウェットなどを合わせるなら杢グレーのものとかで、足元は革靴など。あるいは白シャツをタックインして綺麗に着て、トップのボタンをいくつか開けて大人らしいスタイリングなどが今の気分ですかね」

 

 

「NICENESSのブランドの魅力は発想力と大胆さ。デザインに対するアイデアが豊富な作り手は沢山いると思いますが、 自分のライフスタイルや経験値から経た知識の引き出しとの融合具合が異次元で、他に類似したブランドが見つからないなという印象です。世の中に媚びず、自分の価値観を貫いて、ただ作りたいものを作ってるという姿勢が僕にとっては心地良く、そういったところで信頼しているのが郷さんです」

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya