JOURNAL

時を巻き戻す- Tukir

21AWより始動する『Tukir(トキ)』は、seya.のクリエイティブディレクターを務める瀬谷慶子氏と、尾州の老舗機屋であるT'acca(タッカ)が手を取り合い実現したホームガーメントプロジェクトです。“古くなることに自信を持てる服、年を経ることが楽しめる服”をコンセプトに掲げ、経年変化による素材の美しさを追求したプロダクトを生み出しています。そんな新しい取り組みにかける思いやこれからのTukirが目指す姿について、クリエイティブディレクターの瀬谷さんをお招きして詳しく伺いました。

 

 

 

 

 

素晴らしい素材を作る素晴らしい人たち
その姿を100%映し出すものを作りたい

 

 

「初めてタッカさんが作っている生地を見た時にすごくびっくりして、本当に感動したんです」と瀬谷さん。ご自身のブランドseya.でもタッカの作る生地を使い、関係性を築いていくうちに、タッカのみなさんの人柄にも魅了されていき、いつか一緒に何かできたらいいねと話すようになっていったのだそうです。

 

「友人の紹介で、きっと合うと思うと言われてある日突然訪ねて行ったんです。その時、『こんな生地を作っている人がいるんだ』って本当に感動したんです。それから一宮の方にも行かせていただいたりとか、一緒にインドに連れて行っていただいたりとか密にお仕事をさせてもらっていたんです。タッカの代表の棚橋さんをはじめ、みなさま本当にまっすぐな方たちばかりで、現状に満足することなく今の日本の繊維業界の動きだとかそういったことを真剣に考えて取り組みをされている方たちなんです。『いつか一緒に何かできたらいいですね』と何年も前から話していたし、このピュアな人たちだからできることを全て見せられる企画があったらなあとも考えていて、ちょうど1年前くらいに思いついたアイディアが今回のTukirなんです」(瀬谷さん、以下敬称略)

 

 

生地屋さんとデザイナーとの協業として、ただ生地屋さんから素材を提供してもらいものを作る、という単純なことではなく、もっともっと深いことをしたかったと話す瀬谷さんの言葉の端々には、タッカのものづくりへのリスペクトの思いがにじみ出ています。

 

「経年変化が美しくなる服というのは、もちろん私一人では生み出せないわけです。生地屋さんほどの糸の知識もなければ色の変化がどうなるかも分からない。サスティナブルだとかずっと着れる服だとか言ったとして、もちろん自分ではそういうふうに作っているつもりだし、そういう服を作りたいと思っていますけれど、そこまでのことを本当は言い切れないんです。そういったテストや研究を行っているのが生地屋さんですから、彼らのこれまでの経験や知識を100%活かし、“時間をかけて作って、時間の経過とともに美しくなる生地とはなんだろう”ということを、一緒に考えていきたかったんです。そしてタッカのみなさんでなければできないことをしっかり表現できるようなものをつくりたいと考えました」

 

生地を糸から考え開発することが可能な生地屋さんと取り組めるからこそできることを¬—¬—。天然の染料だけで糸染めを行い製品を作ること、それも昔ながらの機械でゆっくりと織り上げるものづくりの方法を選択すること。それが答えでした。

 

「例えば化学染料を使わず全てを草木染めでやったり、昔ながらの生地の織り方でやったらどうなるか、というのをやってみたかったんです。日本の古い着物や昔ながらの天然の染料を用いた染物って本当に美しいじゃないですか。古いものが今もなお美しい理由は素材が良いからなんです。そして染めも良いから。古い作り方や手仕事を採用したいのは、その方が単純に美しいからです。そしてそれを現代でやったらどうなるか、というのを示したかったんです。今でも昔ながらの方法で生地を織ったり染めたりということはきっと出来るんです。出来るのに誰もやろうとしないだけなんです。それは、多くの人が安くてたくさん出来るものを欲しがるからですね。でも現代だって、出来るんですよ。数はちょっとだけしか作れないけれど、時間もかかるけれど、そして値段もちょっとだけ高いかもしれないけど。そういうことが可能なのだということを、インダストリアルな動きになっている業界の動きの中で、示したかったんです」

 

 

 

 

 

じっくりと素材に向き合い
経年変化を楽しめる服を

 

 

経年により美しくなり、着ることが楽しみになるような服。Tukirが表現する世界は、美しく変化していく生地に焦点をあてたもの。生地の素晴らしさを最大限に活かす服作りを考え、ホームガーメントを作ろうと考えたのだそうです。

「私たちはホームガーメントという呼び方をしているんですけど、お家の中で着る服ですね。お家で着る服って外に着ていく服よりも長く着ると思うんです。実際、私も気に入ったパジャマやガウンとかは本当にすごく長く、10年くらい着ています。洗って洗って、色落ちもしてほつれてきても全然着ている。そのことを思うと、長く着てその変化を楽しんだりするには、きっとお家の中で着ている服の方がいいんじゃないかって思ったんですよね」(瀬谷)

 

「では、Tukirは家で着るためだけの服として考えられたんですか?例えば日本だとワンマイルウェアという言葉がありますが、パリでは、パジャマやガウンとかの服装のまま外に出ることはあるんですか?」(柿本)

 

 

「日本の人ほどはないと思います。そして私はTukirに関してはお家の中で着るもの、として考えました。人に見せるのではなくて自分だけのものとして。それで10年着続けたら色が緑だったはずなのにすごい薄くなっちゃったなあとか、刺繍が解けてきたなあとか、縫い目がつれてふっくらしたなとか。可愛いじゃないですか、そんな雰囲気のビンテージって。そんなものを、自分自身が着続けることでできたらなあと思って。でも、私はあくまで家でしか着ないとは思っていますけれど、みなさんがどこに着て行っても、例えばパーティーに着て行ってもいいと思うんです。素材はシルクの上質なものも、ちりめんの美しいものもありますし、もちろん縫製もちゃんと考えられていますから」(瀬谷)

 

「自分が着続けることで美しいビンテージのようになるという考え方って意外と他にはないなと思いました。洋服業界にはもちろん古いものが好きな人や、古い生地に魅せられている人はたくさんいますが、古いものを“今に焼き直す”みたいなコンセプトのところがほとんどだと思います」(柿本)

 

「最初からあの古くなって格好良くなった生地を作るというのではなくて、なぜ古いものが美しいかというところから始まらないとサスティナビリティはないなと思っているんですよ。美しい理由は、素材がよかったから、染色が素晴らしかったから、だからその作り方でやるということをTukirではやっています。経年変化させるにしても、それを楽しむためには手洗いをおすすめしていますが、洗濯機にかけちゃったりとか、あまり変化させたくないからクリーニングに出そうとか、そういう選択は人によって色々あっていいと思っています。最初から決まった古い雰囲気の生地なのではなく、自分で選べる、ということですね」(瀬谷)

 

 

「本当に、その話を聞いているだけで着ることが楽しみになりますね。最初の展示会を終えて、反応はどうでしたか?」(中出)

 

「展示会に来てくださったみなさまにはちゃんとお話しできて、コンセプトのこととかは通じたかなと思うんです。ただ実際にお店の人にも伝わって欲しいなと思っていて。そういう思いもあってイラスト入りのリリースを作ったんです。あれには本当に細かく一つひとつのことが説明してあります。糸は〇〇ミクロンで…とか、ヤクとは…とか。Tukirのアイテムをファッションとしてではなく、ものをしっかり見て理解してほしいなって思ってのことです。写真入りにせずイラストにした理由も、写真だとファッション性が強く見えてしまうためです。どちらかというと図鑑のようにしたかったんですよね」(瀬谷)

 

 

「イラストがすごく素敵で、みんな感動していました。あのリリースを片手に実際の素材を見比べると、確かに図鑑で調べているような気持ちになり理解も深まります」(中出)

 

 

 

 

軽く快適に過ごせるヤクのガウン

 

 

素材にフォーカスしたアイテムの中でも特にBLOOM&BRANCHディレクター陣が目を奪われたのがヤクを使ったガウンでした。無染色のヤクを使用した別注のガウンコートは、素材の素晴らしさをもっと活かせるようデザインの微調整をお願いして完成しました。

 

 

「このヤクのグレーはヤク本来の天然色です。私はヤクがすごく好きで、一番最初にタッカさんとお仕事をしたときからヤクを使わせてもらっているんです。素材自体もすごくいいヤクなので本当に軽くて暖かいんです。それを、お家で着たり羽織ることを考えてすごく甘く織ってあります。そして今年のグレーはものすごく柔らかくて軽くて、色も綺麗です。毎年ヤクを見せてもらっていますが、今年の糸はすごくいいですよ。ただ、もちろん生き物ですから、来年もこの色になるかは分からないですよね」(瀬谷)

 

ヤクは標高4,000m以上の寒暖差が激しい環境で育つことで、毛そのものが中空繊維になっています。そのため軽く保温性の高い生地を作ることが出来るのです。さらに、今回のアイテムはションヘル織機でゆっくりと織ることから、その効果は大きくなるのだそう。通常のウール素材の場合は水洗いをするとどんどん縮んでフェイルト化していく一方、ヤク原料に関してはフェルト化はせず、手洗いをすることで、フリース状の表面感になっていき、それによって布に膨らみと抜け感が出てきて、より体に合った製品になっていくのだそうです。

 

 

「ウィメンズは手が当たる部分の袖裏も贅沢にヤクを使用し、本当にシンプルな形にしていただきました。着ていることを忘れるくらい、本当に軽いですね!家で着ていても全くストレスなく心地良く過ごせそうです」(中出)

 

通常の高速織機と異なりゆっくりと織り上げるションヘル織機は生地に空気をもたらすため特有の膨らみ感が生まれ布に動きがもたらされます。ナチュラルなテンションが加わることで、製品になってからの布が“生きた布”になるのだとタッカ代表の棚橋さんが教えてくださいました。そして、ヤクに関しては素材特徴も合わさり、その効果はより一層強く表れ、布が呼吸し、経年変化は起こりやすくなるのだそうです。

 

 

「外に着て行っていただいてももちろんいいですし、お家でごろごろしてもいいんですよ。ごろごろして毛羽立ってきても、それが可愛いんですから」(瀬谷)

 

「メンズの方は丈を短くしてもらったんですが、その理由がやっぱり楽だからということなんです。僕は最近車に乗ることが増えてきていて、寒いときにアウターを脱いでから車に乗るという行為がすごく面倒だなと去年の冬に感じたんですよ。短いアウターだったら脱がずにそのまま車に乗り込めるので、丈の長いものをだんだんと避けるようになったんですよね。だからこのガウンを見た時に単純に楽そうだなあって思って、部屋の中で着ることからはすこしずれますが、車内で快適に過ごしたいなってことを考え、この別注の依頼をさせていただきました。ちなみにサイズはTYPE-1と2という呼び方をしますが、理由はありますか?」(柿本)

 

「メンズ・レディースっていう括りでなくてもいいかなと思って。女の人が大きいサイズを着ても可愛いですしね。そして先ほどのイラスト入りのリリースの話に通じますが、製品にはわざと大きなサイズのタグが付いていて、そこにそれぞれアイテムの説明を書いたんです。ヤクとはなんですか?という説明や、これはションヘルで織ってますよということとか、普通は書かれてないことが、わざわざ書いてあります。ちょっと普通の作り方とは違うんですよ、ということを伝えたかったんです」(瀬谷)

 

 

 

 

 

共鳴しあえる仲間ともに
出来ることから少しずつ、ゆっくりと

 

 

Tukirで採用している染色方法は全て天然染料を用いたもの。青山店で開催9月4日(土)から開催するTukirのPOP UP STOREでは、そうした美しい染めのアイテムも並びます。

 

「例えばインディゴ染めのものは宮崎にいる染色家の方にお願いしています。この方はタッカさんが探し当てた人です。こんな色に染めたいけどどうしようか、というときにいろんなところに赴いていろんな人に会いに行って話をするんです。今は天然染色って流行っていますから、多くの人が行き着く特定の場所などもあるのだそう。そんな中で、じゃあ私たちは私たちなりに共鳴してくれる人を探そう、ということで面白い人を集めて協力してもらっています。今関わっていただけている人がみんな気持ちのよく面白い人たちばかりで、それもタッカのみなさんや棚橋さんの生きる姿勢というか、そういったことがすごくいい影響を及ぼしているのだと思います」(瀬谷)

 

 

 

「企業と仕事をすると、効率的で、より多くの利益を出せて、楽にできて、という方向へと進んでいってしまいがちですけど、タッカのみなさんは瀬谷さんと取り組む以上は、納得できるものに拘ろうということや、たとえ非効率でも自然な方法でやりたい、どこまでもいいものを作りたい、ということをきっと強く思ってらっしゃるんでしょうね」(柿本)

 

「そこが本当にありがたいんです。タッカさんももちろん企業ですけれど、繊維業界の色んな流れに対して、アンチというか、そういったもの負けずにただ良いものを作りたいという信念をお持ちだと思います」(瀬谷)

 

「Tukirのプロジェクトを通して、これから挑戦したいことはありますか?」(中出)

 

「世の中には、いろんな国で今でも手作業だけで生み出されるものってたくさんあります。そういう国ってただインダストリアルじゃないから、手でやるしかないからやっているだけなのですが、でもそういうことを、いつかやりたいなって思います。ただ、そういう国の人たちはメールもなかったりするので仕事をするのは不可能に近いんです。旅先ですごく素敵な出会いがあって、ちょっといいなと思って連絡先を聞いたりすると、メールは持ってないとかよくあります。今アルゼンチンの人と仕事をしているんですけれど、その人は銀行口座を持っていないんですよ。だから送金するとかそういったことも一苦労で、色々大変なことはありますけど、素敵なものは日本にも、世界にもたくさんあるから、いつかそれを、と思います。でも私たちも少人数でやっていますから、出来ることには限りがありますので、やれることから少しずつ、取り組んでいきたいです」(瀬谷)

 

最後に、タッカの棚橋さんに、瀬谷さんとともに進めるTukirの取り組みにおいて、一緒にものづくりを進めてくれる職人やパートナーを探し当てる時に大切にしていることを伺いました。

 

「一番大きなポイントは、Tukirのものづくりを理解し、共鳴して頂ける職人さんと仕事することです。昨今の流れから、サスティナブルな考え方が世の中に広がりつつありますが、実際のところ、ものづくりの現場ではまだまだ理解は薄いと思われます。今までの洋服づくりでは、生地においても、より早く・より多く・より安くが主流であり、そのためより効率化を図り、染料開発(化学染料)、高速織機の開発が進み、世界中で昔ながらの良き技法が失われてきました。Tukirでの考えは、そのものづくりの時間を巻き戻す、ということを目指しており、今までとは真逆な、ゆっくりと時間をかけ、昔ながらの技法で、製品一つひとつの良さを体感して頂けるものづくりに取り組んでおります。我々が長い時間で壊してきた地球環境が、ものづくりの技法で時を巻き戻すことにより、少しでも改善していくことを考えております」

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya