JOURNAL

自分が美味しいと感じるものに素直に、
そして楽しんで
- wineshop TAI

BLOOM&BRANCHでは、長く愛せると思えるものを丁寧にピックアップし愛着を持って育てていく時間にこそ、洋服の物質的価値以上のものがあると信じ、その信念のもと、心から信頼のできる洋服をセレクトして提案しています。そしてその視点は、洋服のみならず生活全体に広がります。私たちが素直に美しいと感じた作家さんの作るうつわをの魅力を提案することや、本当に美味しいと心が静かに喜ぶようなコーヒーを提供している理由も同じです。

 

今回新たにBLOOM&BRANCHでご紹介させていただくことになったワインにも、もちろん同様の思いがあります。生活を彩り、そして心を豊にしてくれるその美味しさや、日常で楽しめる飲み心地、そしてそれを誰かと共に飲む時間の楽しさ。そんな魅力を伝えるため、この度ワインセレクションをしてくださるのが徳島にあるwineshop TAIを営む田井良樹さんです。渡仏し、ワインの作り手と実際に顔を合わせ、彼らの人柄に魅了されたことでナチュラルワインの世界へと進んでいかれた田井さん。そんな田井さんのこれまでのお話を交えながら、ナチュラルワインのあるシーンの楽しさ、その魅力について伺いました。

 

 

―まず、ワインに興味を持ち渡仏された経験があるそうですが、どのようなきっかけがあったのですか?

 

「大学生の頃にバーテンダーのアルバイトをしていたんですが、その頃には将来はバーで働きたいと思っていました。なので色んなバーを経験しようと、しっかりカクテルを作るバーや、ワインバーなどいくつかのお店で働きました。そんな中で本格的にワインの勉強をしたいなと思い、ソムリエの試験の勉強をしていたんですが、それに嫌気がさしてしまって。それだったらお金を貯めて実際に自分がフランスに行って見た方が早いんじゃないかと思ったんですよね。それで大学を卒業してから一年間お金を貯めて、フランスに行きました」(田井さん、以下省略)

 

―フランスにはどれくらい滞在したのでしょうか?

 

「最初はロワール地方に行って収穫醸造のお手伝いをして、そのあとはボルドーやブルゴーニュのクラシックなワインの産地をまわって帰ってこようと思っていたので、半年くらいで帰ってくる予定だったんですが、結果的に1年3ヶ月滞在することになりました。最初の目的地だったロワールに滞在中、ナチュラルワインの生産者さんにいっぱい会う機会があって、西の端にあるナントという町で友達ができたんです。それで彼の家に居候しながら、近くのビストロで働き始めたんですよね。そのビストロは酸化防止剤ゼロのワインしか取り扱わないお店で、ご夫婦でやってる小さなビストロでした。就労ビザを取って働き続けるつもりだったんですけど、紆余曲折あり日本に帰国することになりました」

 

 

―ナチュラルワインの作り手と出会った時、どのような印象を持たれたのですか?

 

「僕が一番好きなババスという生産者は、ロックミュージシャンのような出立ちで衝撃を受けましたね。僕が行った時には、『若い日本人が来たよ』と仲間を集めて飲み会を開いてくれたりしました。僕はクラシックなワインバーで働いていたこともあって、その当時ワインは大きいワイングラスに、それもうやうやしくグラスに注いだりしていたんですけど、そこで出会った生産者たちってボトルを雑に持ってざーっとワインを注いでいたり、ワイングラスだってたくさんの種類を持っている感じではなくカジュアルに使いやすいサイズのものを使っていたりしたんです。美味しいワインを気取らずに、自分たちも楽しんで飲んでいるっていう感覚がすごい伝わってきて、それが格好いいなと思いました。見ず知らずの日本人が来ても、どこでもオープンでいてくれて、すごく優しくて、そしてラフな格好良さがあって、そんな生産者さんたちの人柄にぐっときました。その経験があったから、そういう素敵な人たちの作るワインを提供したいな、普段から気取らずに日常的に飲むお酒として楽しめるようなワインを出したいなと思うようになりました」

 

―その出会いがあり日本に帰国されてからは、飲食店で経験を積まれたんですよね。

 

「そうですね、日本に帰国してからは、代々木上原にあるMAISON CINQUANTECINQ(メゾン サンカントサンク)で働き始めて、その後そこの一階でワインバーを任せてもらうことになりました。その当時思っていたのが、生産者さんの家に行って飲んでるような雰囲気のお店がやりたいということ。テーブルの真ん中にパンがあって、ちょっとしたつまみがあって、好きに食べていいよっていう感じで、みんなで卓を囲んで飲む、みたいなお店をイメージしていて、その時やらせてもらえたことで当時描いていた夢は一つ叶えられました。今の店のテーブルもその当時のものを持ってきて使っています」

 

―そこからご結婚され、奥様の故郷である徳島へ移住されたんですね。

 

「その時が三十歳だったので、三十代のうちにもう一つ違うことをやろうかなと考えたりもしていたんですよね。もともと妻の実家が農家だったので、最初は酒屋と農業をやろうと思っていて、菜の花作りを教えてもらいました。畑の土台づくりから出荷までの一連の流れをワンシーズンやってみて、でもすごく大変さが分かったのと、酒屋も中途半端には出来ないなと思って今は酒屋一本です」

 

 

―酒屋としての田井さんが大切にされていることはなんですか?

 

「自分が飲みたいもの、美味しいと思えるものを素直に勧めるというこということは、大事にしているというか、それしかできないかなという気がします。商売的に、売れている商品をリサーチして仕入れして売るっていうのが上手にできたらいいなって思う反面、自分が飲んで結局そんなに好きじゃなかったらもう売らなくていいかなって感じてしまうから、自分にはそういう方法は向いてないんだなって思います。こんなに美味しくて素敵なワインを作っている人がいるんだからそういうのを色んな人に知ってもらいたいし飲んでもらいたいというのは、飲食店をやっていた時にも一番感じていたことではあります。ただ、ワインの価格は少し上がってきているので、ちゃんとナチュラルワインで飲み心地が優しく、僕が美味しいと納得できるものを揃えようとするともう千円代じゃ手に入らなくなってきています。日常のお酒として提案したいと先ほど言いましたが、毎日1本四千円前後のワインをあけるのかといったらそういうわけにもいかない人も少なくないのかなって思っているので、よりTPOに合わせてというか、ビールや酎ハイをぐびーっと飲みたいときもあるだろうし、一方で友達とゆっくりおしゃべりしながら飲みたい時とか、変な酔い方をせず楽しみたいときにはこういうワインがあると、穏やかな酔い方ができたりその時間を楽しく過ごせる感覚があるので、そんな時に美味しいワインを飲んでもらいたいなと思っています。誰彼構わずワインを知って欲しい、飲んで欲しいというより、そういった考え方には変わってきていますかね」

 

―ここまでナチュラルワインが一般的に飲まれるようになったのは、何故だと思いますか?田井さんの思う魅力を教えてください。

 

「単純に美味しいからじゃないですか。味わいだけの話じゃなく、先ほど言った飲み心地とか酔い心地とか、身体に対するシンパシーの部分もあるでしょうし、そういった部分でも多くの人に理解されてその良さが伝わっていったのは、やっぱり根本的にものがいいからだと思います。あともう一つ、ナチュラルワインの良さを挙げるならば、ボルドーやブルゴーニュのクラシックなグランヴァンと近い飲み心地や味わいをもつものがあることです。いわゆる高級ワインとされるものが熟成して飲み頃を迎えたものを、働いていたバーで飲ませてもらう機会が何度かあったんですけど、それとは全く価格も違うのに、ナチュラルワインにはそれに共通する部分があって、すごく感動した記憶があるんですよね。だから一概に、クラシックなグランヴァンとナチュラルワインを別物みたいにしなくてよくて、結局みんなが美味しいと思うものとかいいよねと感じられるものって目指しているところは一緒なんじゃないのかなって感じがします。クラシックなワインを好まれていた人だとしても、そういった方に美味しいと感じてもらえる味わいのナチュラルワインはありますし、初めて飲む方にも、あまり個性が強すぎず飲み心地の優しいものももちろんあります」

 

―ただ、経験がないと、ワインをどう味わって楽しめばいいのか、どういう時にどんなワインを選べばいいのかわからないという方もいますよね。

 

「どれがいいかは、その人のこれまでの経験値とかによって生まれる差でしかないと思うんです。そこには決まり事もないので、お客さんの意見を聞いて、こんなのが好きだったらこういうのも好きじゃないですか、これはどうですか、と僕はおすすめしていくので、自由に感じて楽しく飲んでいただけたらいいかなと思います。この前すごく面白いことがあって、レ・コステという作り手の“ピッズィカンテ“というスパークリングがあるんですけど、そのワインは結構酸っぱくて酵母っぽい香りのする味わいで、ちょっと変わっているんですよ。それを年配の男性が買っていってくださり、そのあとまたすぐお店に来てくれて、『あれすごい美味しかったよ』と言っていただいたんです。どんな感じでしたかと伺ったら、『僕は古い熟成したピノ・ノワールが好きなんだけど、熟成したピノ・ノワールにある匂いと同じ種類の匂いがあったからすごく好みだった』と。普通は白い色をしていてスパークリングワインだということを目で見てそれを情報として認識して飲んだらそんな想像をするわけないんですけど、その方にとっては経験の中では繋がりがあったんですよね。そういう感覚って否定できないじゃないですか、その人が感じたということは事実なので。固定観念なく、そうやって味わって飲んでいただけたのが嬉しかったですし、そういう出会いや経験ができることが酒屋として嬉しいことだなと思いました。だから僕も、これはナチュラルワインですよ、という線引きは極力しないようにしていて、シンプルに自分が美味しいと思うものをおすすめしています」

 

知識や経験があるからこそ楽しめる味わいもあるけれど、必ずしもそれだけにとどまらず、自分の心と身体が純粋に美味しいと感じられるものを通して楽しい時間が過ごすことができたら――。友人や大切な人、家族との楽しい食事の時間に花を添えてくれるような優しさがあり、一人でゆっくりと読書をしながら楽しめる心地よさもあるワイン。日常のさまざまなシーンに寄り添ってくれるワインをこれから田井さんのお力をお借りし、ご紹介させていただきます。是非、青山店・WEB SHOPにてご覧ください。

 

 

 

 

text : Yukina Moriya