JOURNAL

デイリーに着るカシミヤカーディガン
- HERILL

素材追求型のブランドが主流になる昨今のファッションの流れの中でも異彩を放つブランドがあります。HERILLはその代表格で、リネンシルク、カシミヤシルク、コットンリネンなど素材を交織することでまだ世の中にない素材を生み出す多くのブランドとは異なり、単一素材をどう扱うか?を追求することで、見たこともない素材の一面を私たちに見せてくれるブランドです。
そんなHERILLの代名詞的素材であるカシミヤを用いた極上のアランカーディガンが完成しました。デザイナー大島さんへのインタビューを交え、HERILLのニットを長く楽しむためのヒントを探ります。

 

 

 

 

Interview with Hiroyuki Oshima

 

 

―大島さんのものづくりに対する原体験はありますか?

 

祖母が服を作っていたこともあり、子供の頃からいつも作業場で遊んでいました。高校時代は制服を自分で直したり、ジーンズショップでアルバイトをして裾上げしたりしていました。昔から古着と新しい物どちらも好きで、所謂アメカジ的な物が多かった気がします。

 

―カシミヤに特化したブランドを作ろうと思ったきっかけはありましたか?

 

カシミヤに特化したブランドを作ろうとは思っておらず、ブランドを始める際に素材を作っていったらほぼカシミヤ製品になってしまったというだけです。AWシーズンはやはりカシミヤを着ることが多いので、自分の中で好きというよりは、自然とカシミヤが多くなっているような感じです。

 

―HERILLというブランドについて想像するとき、素材にフォーカスされることが多いかと思うのですが、洋服のデザインについて、気をつけていることやこだわりはありますか?

 

基本的に自分で着ることを前提にしていますので、サイズ感などはどうしても自分のサイズになっています。デザインなどはベースが古着好きなので古着を参考にすることが多いですが、そこも自分で思うように、自然と手直しして作っていますので、バランスなどが崩れているのが自分の好みになっていると思います。なので、あまり万人向けではないと思っています。

 

 

―大島さんはご自身でもよくお料理をされると以前展示会のときにお話しくださったのが印象に残っているのですが、料理と服作りに共通点はありますか?

 

あまり考えたことがないのでなんとも言えませんが、料理などは趣味的なものなので嫌ならやりませんが、服を作るのは仕事なので嫌でも向き合っていかないといけないので…。共通点なんでしょうか?妻が作る料理は毎日ちゃんと丁寧に作るのでHERILL的だなとは思うことはあります。

 

―カシミヤニットの仕上げ直しサービスを始めたきっかけ、理由をお聞かせください。

 

自分の着用していたニットを直したのがきっかけです。ぼろになってもいつまでも着たいというのがあり、自分のニットを直しました。その時自分が感じたのと同様に、着用期間が長くなるにつれ愛着が湧く服の魅力がお客様にも伝われば良いかと思い、始めました。私は古着以外はあまり物を買わず、気に入ったものを何年も着用することが多いのでそういった自分の洋服への向き合い方もきっかけになっているかと思います。ただ、ニットの直しは今現状あまり多くなると出来ないと工場さんにも言われており、そこも考えながら良い方法で続けていけたらとは思っています。

 

―大島さんにとって「上質であること」ってどんなことでしょうか?

 

上質な商品を狙って作ろうとも思っていないので、答えが難しいです。
作る糸や素材などは良いなと思うものを作り、ただそれは高級なものではなく、いつも着てしまうような、そんな商品ができれば良いかと思ってものづくりをしています。
着用で言えば、カシミヤのニットの下にポリエステルのインナーなどを着るのはあまりにももったいないと思います。私は最近インナーを着用せずに直接HERILLのカシミヤニットを着ます。汚れたら洗濯機で洗い、ぼろになったら直したり、毛玉も気にせず着ます。インナーを着るのが面倒というのはありますが、カシミヤの風合いを一番感じることができます。HERILLのカシミヤニットは上質なもの、高級なものとしてではなく、タフに着ていただければ良いかなと思っております。

 

 

 

万能なクルーネックカーディガンは
長いシーズン楽しめるアイテム

 

 

 

「シルエットがゆったりで楽なもの、そして快適な着心地の追求というのが、ここ数年色んなブランドが試みているファッションの流れの軸のように感じています。そしてもう一個のキーワードみたいなものが“交織”かなと。世の中にない斬新な素材の組み合わせを見つけて、50×50で素材を合わせてみたり、70×30にしてみたり、最後の仕上げをどうするか、あるいは糸の撚りをどうするとか、そういう素材のオリジナルな掛け合わせの考案はたくさんのブランドが試みていることだと思います。一方で、大島さんは単一の素材をどこまで良く作れるか、という姿勢でものづくりをされていることに気づきました。それが素材追求型のブランドの中でも、すごくストイックな感じがするんです。リネン100%とか、カシミヤ100%、シルク100%といった単一素材使いで、繊維から糸、糸から織り物や編み物にするときのテクニックだったり、どんな仕上げがベストか、着込んでどうなっていくかを深く考えられていると思います。その思考の中でもちろん、交織の素材も生まれているのでしょうが、そこに値段設定もなければ世の中に媚びていることもなく、とにかく良いものを作るというのがベースにあって、出来上がったものに対するコストから上代設定をしているだけ。そこの心意気みたいなものにバイヤーとしてすごく惹かれるし、説得力があるなと感じるし、魅力を感じるデザイナーの一人だなと思っています」

 

他とは一線を画すHERILLのものづくり。代名詞であるカシミヤニットには多くのファッション玄人が惚れ込み愛用しているはずです。

 

「今回別注させてもらったアラン編みのニットは、同じ素材のクルーネックをスタッフの与那嶺も去年から愛用しているのを見ていて自分も気になっていたアイテムの一つでした。カシミヤのカラーネップのミックス系の糸でアランニットを作ってしまうって、意外とこれは世の中にないんじゃないかなって。値段も振り切っているし、抜群の保温性もあるのもわかっていたから、自分もこういうニットが欲しいなって思った時に、カーディガンだったらシーズンを跨いで一番長く着れるアイテムなんじゃないかなって思ったところもあり、個人的な思いもあって今回のアイテムができたんですよね」

 

 

 

抜群の保温性の極上ニットはどうせ着るなら出来るだけ長く着たいもの—そう考えた時に本当に自分が欲しかったのは、アウターにもなればインナーにもなるし、着脱もしやすいカーディガンというアイテムだったと話します。

 

「電車の中とかだと真冬でも暑いくらいだろうからそうなった時にすぐ脱げるものの方がやっぱり便利だろうなって思ったんです。ただ、Vネックのカーディガンだとクルーネックに比べて保温性も劣ると思ったのと、カーディガンをインナーに着たときの見え方とかも、クルーのほうが今の気分かなと。あと一つ、アランニットだからやっぱり僕はインバーアランを意識してしまうところがあって、“インバーアランの超極上版“というか“現代版”をやりたいですって大島さんに相談しました」

 

 

 

万人に似合うわけじゃない、
玄人のためのインバーアラン

 

 

 

「インバーアランのクルーネックのニットベストやカーディガンは僕自身も持っていたしよく着ていたアイテムで、それが本当に使い勝手がいいんですよ。便利なあまり、企画で参加しているPhlannèlでもクルーネックのカーディガンを提案して作ったりもしているくらい、個人的には好きなアイテムで。男性はクルーネックよりVネックのほうが着る人が多いでしょうし、世の中的にもVネックカーディガンはトレンドの一つになっていると思います。ハイゲージやミドルゲージならVネックもいいなと思うんですが、ローゲージになると着る季節は冬になるし、アウターとしても活用出来るようにって考えるとクルーネックのほうが理にかなうんですよ。印象は、Vネックのシャープさに比べると山っぽいというか田舎っぽい感じがあるのがクルーネックですが、それをモダンにシャープに着るっていうのがいいなって思います」

 

保温性を考えた実用面に加え、今着たいスタイリングからも考えられたのが今回のカーディガンなのだそう。

 

「あと、僕はこの一年でファッションに対する考え方も様変わりしてしまって。前まではスタイリングの色数もかなりまとめていたので、もし去年の自分がこのカーディガンを着ていたとしたらタートルのカットソーの上に一枚着て終わり、みたいな感じだったと思うんですけど、今だったらちょっとごちゃごちゃってさせたのもいいなって。ダークトーンとかも色数減らしたのも好きなんですけど、色物のシャツにGジャンを重ねて、その上に着るような、去年までならやらなかったレイヤードスタイルとかもすごく気分です。それもあって、レイヤードが楽しめる一枚を目指しているところもあります」

 

 

「アームホールが広めなのでジャストなジャケットの上からでも着れてしまうし、でも極端なオーバーサイズではないのでコートの内側でも問題ない。大島さんが言うように誰にでも着やすい、誰にでもはまるようなサイズやデザインではないかもしれませんが、その絶妙さが自分では気に入っています。使い勝手がいいクルーネックカーディガンだけど、どこかちょっとスタイリングが楽しい、というところが万人にははまらないかもしれない分、洋服が好きな人にとってはたまらなく楽しくてスペシャルな一着になったんじゃないかと思います」

 

万能なクルーネックカーディガンで少しでも長いシーズン楽しみたい、だけど普通のニットは欲しくない。そんなわがままを叶えてくれるスペシャルなカーディガンは、手にした人にしか良さを感じられないかもしれません。さらに言えば、それをデイリーにタフに長く、毛玉がたくさん出来るほどに着込んだ時に初めて、本当の良さが体感できるのでしょう。

 

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura

text : Yukina Moriya