JOURNAL

長く着たい服、捨てたくない服
- ULTERIOR

シャンブレーギャバジンのオーバーコートを着たULTERIORデザイナーの牧さんに再会した柿本が、そのコートの存在感に惹かれて別注をしたのは昨年のこと。21AW展示会に並ぶ分かりづらいけれども哲学のある素材の数々を見た柿本は、今年もULTERIORとの別注コートを作ろうと即決、すぐに牧さんに相談し、新しいコートが完成しました。
前回に引き続きULTERIORデザイナーの牧さんをお迎えし、完成したコートについて詳しく伺いながら、そこに見えてくるULTERIORのブランド哲学を探ります。

 

 

 

機能美を残しつつ
モダンに昇華したリバーシブルコート

 

 

インラインで展開されていたスノーパーカーをベースとしたリバーシブルコートに、柿本がひと目で惹かれたシャンブレーギャバジンの素材を使った別注コート。よりミニマルにモダンにしたいという柿本の要望を聞き、牧さんからまずは絵型を3つほど提案してもらったそうです。

 

「そこから今回のデザインを選んで、進めていくのはわりとスムーズでしたが、出された絵型の時点で完成度がものすごく高かったですよね。ベースが軍モノなのでディティールとしては機能が満載なところを、いかに削ぎ落としていって必要最低限にするか、一方でベースにあるデザインの特徴はあまり消したくないという、そのいいところをちょうどついてくれた感じでした」(柿本)

 

 

「リバーシブルのコートというもの自体ほとんどやったことはなかったんですよ、実は。でも今の時代、コートって必要最低限あればいいものだなと自分で思ったときに、じゃあ何着もいらないからきっと一着でいろんな機能が備わっていたらいいのかなというところから考えは始まりました。その糸口から一つ浮かんだのがリバーシブル。じゃあリバーシブルでデザインを起こすにしても、デザインにルーツは欲しいなって。そのときに思い浮かんだのが山岳部隊のスノーパーカーでした。このコートは第二次世界大戦の時代のアメリカのものをベースにしているんですけど、雪山でも使うことが考えられているので基本的にオリジナルのものはオリーブと白のリバーシブルなんです」(牧)

 

「本来であればリバーシブルのコートは裏と表の色がしっかり配色になっているべきですよね、おそらく。でも今回は気に入った素材を組み合わせたので両面近い色になりました。それぞれの素材が面白味があるので、色が近くても雰囲気の差がしっかり出ているなと思います。形に変更はありましたっけ?」(柿本)

 

「形に関しては、かっきーから丈をハーフコートくらいにしたいという要望もあったから、インラインより3cmくらい短くなっています。それ以外のパターンはインラインのものと極端には変わらないんですけど、別注で使ったシャンブレーギャバジンの素材に比べてインラインで使っていたオーガニックツイルのほうが番手が細いのと、もう少し柔らかいものだったので、そのままの寸法で作ったらこのコートは少し小さく感じるかなってところがあったので、アームホールに少しゆとりを持たせたりしています。着ていてちょっとでも悪い違和感があると着たくなくなっちゃうじゃないですか」(牧)

 

「なるほど、ギャバジンの素材がしっかりしているから、着心地が硬く感じてしまうんですね。ディティールに関しては、極力ミニマルにしていく方向で調整してもらったので、結局ベースにあるデザインで残ったのは、フラップポケットと、あとハンドウォーマーですかね?あとはフロントをボタンでなく比翼のデザインにしてもらったところが大きなポイントですかね」(柿本)

 

 

「やっぱりM-41、42、43ときて48、51、65と続く過程にあったモデルだからデザインはかなり完成されているものだなって改めて感じましたね。多分実際にはヘルメットを被ってこのコートを着て、リュック背負う感じかと思うんだけど、このモデルのいいなって思ったところの一つがフード。ヘルメット前提だからだと思うんですけど、襟の部分を立てたときに顔が隠れて少し首回りにくしゅっとした素材感が残りながらも収まりがいいんですよ。フード自体の形も立体的で、被らなくてもしっかり立ってくれるところもいいですよね。それをパターンとして作るときには気を使いましたね。とは言いつつもリプロするのも違うから、ほのかにベースのデザインの持つ要素を残しつつ、素材感やフォルムをうまく調整していきました。フロントが比翼になることで、ばっと並んだボタンのデザインが削ぎ落とされて一気にモダンな印象になりましたよね。ボタンを減らすと生地がばたついてしまうので、新たにループをつけることでその問題は解消しました」(牧)

 

「首元のボタンも一緒にとってしまおうかという案もあったんですけど、僕自身はもしかしたらこの上のボタンだけを留めて着るかもしれないなって思って残してもらいました。結果的にボタンがあるところとないところの強弱がついていいバランスになったと思っています」(柿本)

 

 

「あとはこのモデルはベルトが特徴になっているかなと。このモデル以外でこのデザインのバックルを僕は見たことないかなって。当時のリアルなものと全く一緒のものを使っているんですけど、このパーツを作っているところがなかなか見つからなくて。1社ようやく見つけたところがあったんですけど在庫なんて持っていなかったので、残っていた型から起こして新しく作り直したんです。かちっと引っ掛けて止める形で、ベルトの長さはそのまま引っ張って調整していくタイプですね。ゆるめるときにも引っ張るだけなのですごく良くできているデザインなんですよ。ベルトの金具の下に残ったベルト部分は、金具がコートの生地のほうに干渉してダメージが出ないための配慮なのかな、という推察でこの仕様もベースからそのままです。よく見ていたら理にかなったデザインがたくさん盛り込まれているんですよ」(牧)

 

 

「このベルトの色はウールカシミヤの素材に合わせて染めているって言ってましたよね?これがギャバジンの方にも色がばっちりなんですよね」(柿本)

 

「この素材を使いたいって言われたとき、すごい良いとこ取りするなって思いましたよ(笑)ある意味別注ならではのアイディアというか。表裏の生地色が似ているから、ボタンホールもどちらの面にも違和感がない色で作れるんですよ。生地の配色があるとどちらかの面のときにはどうしても色差が出ちゃうので」(牧)

 

「色々着て試してみたんですけど、僕個人的にはウールカシミヤの面は上までボタンを留めて着たいけど、裏返しにしたら前開けたいなって思ったんです。何でだろうって思ったら、ギャバジンの面が表の時、この起毛した生地が裏地みたいに見えるんですよね。ギャバジンのフーデッドコートってきっとカジュアル見えするだろうなって思ったところに、前を開いたときこの裏地が見えたら、結構大人っぽい印象になるんだなって思って。だから素材の印象だけじゃなく着方もそれぞれの面で変えられるなって気づきました。あとは内側の面にくる生地につけられたポケットが自然とコートの内ポケットになってくれるので、めちゃくちゃ機能的ですね」(柿本)

 

 

 

 

ルーツを微かに潜ませながら

 

 

「ウールカシミヤの面はぱっと見たときに2色の糸が見えますが、どちらかがウールで、もう一方がウールカシミヤってことですか?」(柿本)

 

「トップグレーがウールカシミヤで、ベージュがウールです。カシミヤが入ることで軽さが感じられるようになるし、タッチも滑らかになります。あとは、生機の状態からワッシャーをかけることで織り柄をあえて曖昧に見せているんですが、それはカシミヤの毛がふいてくることによって起こる変化です。グレーの方にあるカシミヤが全体にかぶってきてこういう色が出るんです」(牧)

 

 

「この生地の柄の出方の曖昧さとか色合いはすっごい牧さんらしいじゃないですか。『ULTERIOR』って文字に書いてあるみたいに」(柿本)
「これは日本語でいうと網代織り、いわゆるバスケットツイルって言われる生地をベースに、柄を崩したバスケットツイードです。春夏にインディゴ染めの綿麻素材を作ったので、そこから少しずつ改良して、その秋冬版として作ってみたいなと」(牧)

 

「網代織りは反物などで見たんですか?」(柿本)

 

「僕が着想を得たのは茶室の天井なんです。数寄屋造りの建物の天井なんかに多いと思うんですけど、木や竹を平面状に編んで作られた天井があるんです。ULTERIORをはじめるときに改めて色んな場所に行ったり色んなものを見たりしていたときに、昔だったら気にも留めなかったものが色々目に入って新しい気づきがあったんですよ。その網代天井も、よくよく見たらなんかいいなあって思って。ルーツを辿っていくと、魚を捕る為に川に立てた、竹や木を組んだ網状の仕掛けに由来する編み方なんですよね。竹って日本にはルーツとしては根深くて、茶道具を入れる箱もそうだし、抗菌殺菌作用があったりするから様々なものの包みとして使われることも多かったし、日本に根付いている原料のうちでも本当に色んなものに使われていることが分かったんだけど、竹を服に転用するのはなかなか難しいところもあって、自分たちのルーツにあるものをファブリックでどう表現できるかなって考えたときに、こうなっていった感じです」(牧)

 

「変形のヘリンボーンみたいな織柄ですよね」(柿本)

 

「そうです、組織としては変形のヘリンボーンなんです。試織したときに、織柄をわかりやすく見せると和の雰囲気がやっぱり強かったんで、そこからまずは濃淡をはっきりさせない糸を使って、それをタンブラー仕上げにして毛を被らせることで、柄があるようでないような見え方にしました。網代織りの反物もありますし、それを自分が作ってもしょうがないから、今着る服としてどう作っていけばいいかなって考えたわけではあるんですけど、別にルーツがどこにあるなんてことを着る人が理解していないとだめということでも全くないから、さりげなく入っている程度でいいのかなって」(牧)

 

 

 

いい意味の違和感をいかに作れるか

 

 

 

前回別注したシャンブレーギャバジンのオーバーコートは、今回はオンライン限定で作っていただきました。前回詳しくお話しいただいた生地づくりには、陰影のある表現など牧さんの哲学がしっかり生きています。

 

「先染めした糸を2色を混ぜて1色の生地を作るというのは最終の色の出方は想像の範囲でやっていかないといけないんですごく難しいんですよ。経験で判断しなきゃいけないけど、経験で判断しても外すこともあります。その積み重ねでしかないからと思ってやっていますけどね。職人さんたちにも色々アドバイスを聞きながら。今回の色は割と日本っぽい茄子紺のような青と黄色がかったベージュの2色で構成されています。これを見るとみんなびっくりするんですけどね」(牧)

 

 

「見たら青っぽい色が入っているのは分かりましたけどこれは衝撃ですね。見方によってはベージュっぽくも光る。この2色でこのグレイッシュな色が出るんですね。そういった日本的なルーツを引っ張ってくるというか、掘り下げていくものづくりの姿勢はULTERIORをはじめてからのことですか?」(柿本)

 

「そうですね。といっても日本的なデザインとかを入れたいわけではなくて、作る服の中にそういう日本人の哲学とかアイデンティティみたいなものが、見えなくてもしっかりあったらいいのかなって。和っていうことがやりたいわけではないんで、あくまで洋服っていうものの中に自分たちのルーツにあるものをどれだけ込められるかなっていうところでしかないです。ULTERIORの服を着てくれる人にあまり恩着せがましくそれを伝えたいわけでもないし、分かりやすく表現したいということでもないんです。やっぱり洋服はあくまで着る人がいる上で初めて成り立つものだから、そこだけは絶対に守りたいというか」(牧)

 

「それは伝わります。柄の出し方とかも、色の決め方とかも、デザインも。絶対意味があるデザインですからね」(柿本)

 

「たまに考えるんですけどね。意味のないデザインというか、理屈のないデザインも。そういうデザインを書いたりはするんですけど結局最終的にそれを使うことがないですね。なんかやっぱりどうしても自分の中で辻褄が合わなくなってしまうっていつも思ってしまって」(牧)

 

「でも牧さんの作る服は、いい意味の違和感があるというか、普通に見えて全然普通じゃないですからね、そこが気になるポイントなんです。だからこそ、最初に別注したコートも、牧さんが着ているのを初めてみたときに『あれ?これは何?』と感じたわけですし」(柿本)

 

「正方形は嫌なんです。どこのブランドも今はものすごいレベル高いと思いますけど、そういった部分ではなく、ブランドごとのアイデンティティってそれぞれみんなあると思いますが、そこで正攻法でありたくないというか、自分なりの遊びがあってもいいのかなって。このオーバーコートはきっと原型もイメージできるけど、でも普通ではないです。それは見た人が必ず気づくほどの奇抜さではなく、着ていて心地がよくて、使い勝手もいいし、機能的にも最小限のデザインが入っていて、それでいて存在感がある、っていう、そのくらいのいい違和感みたいなものはいつも欲しいと思っています」(牧)

 

 

「牧さんのこの塩梅って、長く着るっていう意味ではベストかもしれないです。奇抜なものっていいですけど、やっぱり後々『これなんで買っちゃったんだっけ?』という日が来るじゃないですか。でもかといって、シンプルなものって飽きるじゃないですか。シンプルな服は好きなんですけど、ずっと着ていられるって思うんですけど、やっぱりなんかないと飽きがくるんだっていうのを最近すごく感じています」(柿本)

 

「それってなんでもいいんですよね。僕も意外と自分に愛着があるものってシンプルなものじゃないなっていうのは思っていて。だからそういうのを心がけています。長く着るって捨てたくないってことに繋がっていくと思うんです。それには服としての耐性はもちろん必要で、その上でその人が愛着を持てなければならない。それってどんなものなんだろうって思ったときに、どこかに一癖、唯一無二なそのブランドのらしさみたいなものが入っていれば、ものって捨てないなってここ何年か自分の中で気づきがあって、だからそういうものを作りたいなっていつも思っていますね」(牧)

 

 

「世の中こういう状況で、環境問題とかって避けては通れぬ問題になっていますけど、僕らのような小さいブランドが出来ることって、どうやったら捨てないで着てもらえるか、長く着てもらえるかってことを考えることなのかなと。それが今のこの規模でやるブランドの役割というか。もちろん環境配慮型のものづくりもやってかなきゃいけないとは思うんですけど、でも一番は捨てないことなんじゃないかなって。一人でも多くの人に、捨てたくないなって思ってもらえたらいいなって思います」(牧)

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura
text : Yukina Moriya