JOURNAL

靴と洋服は一緒にあわせるものだから
- forme

木型やパターン、設計までをデザイナー自身が行い、職人と密にコミュニケーションをとりながらクオリティの高いものづくりを続けているforme。BLOOM&BRANCHでは定番となったウォレットの別注とともに、今シーズンは初めて別注での靴制作を依頼、ようやく完成の時を迎えました。今回は浅草にあるformeのアトリエを訪問し、デザイナー小島さんにお話を伺いました。ファッションにおいて靴は切っても切れないアイテムにも関わらず、洋服と靴には分断があるように感じるという小島さんのことばの裏には、従来の価値観に囚われることなくものづくりをしたいという思いが垣間見えます。

 

 

 

新鮮さを感じるサイドジップブーツ

 

 

今回、男女ともにベースとなったモデルはサイドジップブーツ。そこからメンズは“ありそうでないデザインの面白さ”を、ウィメンズは“formeを履いたことがない方にも手にとっていただける品の良さ”をプラスする形で制作は進みました。

 

「まずメンズの方は、奇抜さはないけど、今まであるものとも違うような、ギリギリのところを攻めるようなものを作れないだろうかと思って。今までもこんなの見たことあるよねって思えるくらいの自然な感覚で、でもこれまで意外となかったかもねという新鮮さを与えられるものを—そこで最初はサイドジップブーツのトゥにメダリオンを施せないかと聞いたんですよね」(柿本)

 

 

「はい、でも今回ベースとなるサイドジップブーツのように、一枚革で作られるパターンのものは、木型に革を沿わせていく吊り込みの作業のときにトゥの位置がぶれやすいという制作上の問題があったんです。穴飾りを施すとそういった制作の問題点をクリアしていかないといけなくなったのが、悩みの一つ。あともう一つが、メダリオンっていうのはもともとタータンチェックのように、国や地域やブランドごとにオリジナルのものを持っていて、いわば家紋のような、重要な役割を担っていた歴史があるものなんですよね。それをオリジナルで作るというのは、自分にとってはハードルが高く、なんだかしっくりこなくて、これまでformeではメダリオンを作ってこなかったんです。それらの理由もあり、メダリオン以外で表現できることはないかと考えて、こちらからストレートチップのサイドジップブーツというのを提案させてもらったんです」(小島さん、以下敬称略)

 

 

「そのアイディアを伺ったとき、ありそうであまりなかったかもしれないなとすごく腑に落ちて。あとサイドジップのブーツってイメージ的にはモードな印象が僕の中では強かったので、それをもうちょっとクラシックな方向に持っていけたらいいなって思っていたところにばしっとはまった感じがありました」(柿本)

 

まず制作いただいたファーストサンプルを見せていただきました。パターンの確認や職人との制作に関する話し合いのために使用するものとなり、底をつけていない状態なのだそうです。

 

「吊り込み作業のときにトゥの部分が左右にぶれやすいというのは、足首から上の部分の立ち上がりを意識してのことなのですが、そういった状況でも対応できる作業工程になるよう、職人と話し合いました。そんな感じで、靴って洋服と違ってかなりわかりづらいことをやっているんです」(小島)

 

 

ウィメンズの別注について中出は、展示会で見たサイドジップブーツの完成度の高さにも見惚れ、それを仕入れることを考えたものの、より広いお客様に向けてなにかできないかと、アイディアが浮かんだのだそうです。

 

「拝見したブーツがすごく素敵で、もうすでに完成されているものだったのでそれを仕入れようかなって考えましたが、例えばformeをこれまで履いたことがない方にもきっと支持されるような美しいモデルだなって思ったので、素材を変えてもう少し品のある印象に近づけられたらいいなと思ってお話しさせていただいたんです」(中出)

 

 

「その時提案させていただいたのがこのスーパーバックというスエードで、チャールズ・F・ステッド社というところのものです。一流のシューズメーカーはほとんどがこのスエードを使っているくらい有名なタンナーですが、とにかく毛足が短く滑らかなところが特徴です」(小島)

 

「発売が12月頃というのを予定していたので、冬から春にかけても履きたいものがいいなと思った時に、表革よりスエード素材の方が軽やかさも出て、浅い色のデニムやワンピースに合わせたりして長く楽しめるかなと。ベージュの方は、ちょっとペコスブーツみたいな印象もあってすごく気分なんですが、ただカジュアルな印象になってしまわないかという懸念もあって、そこを小島さんにお伝えして細かく見ていただきました」(中出)

 

「特に底周りに気をつけて作りました。ベージュは底の厚みを出すとカジュアルさが際立ってしまうかと思ったので、こちらはレザーソールにしてステッチ色を白からベージュに近い色に修正し、あとはご要望もありジップをインラインのシルバーからゴールドに変更しました。これがヌバックだったらかなりカジュアルに見えてしまうところですが、スーパーバックの滑らかさもあってすごく品よく上がりました。履き込んでもガサっとしてこないで、肉厚な、ドレープが入ったような綺麗なシワが入ります」(小島)

 

 

「メンズの方はレザーはインラインとは変えずにクラスというレザーを使ってもらいました。このタンナーについてもう一度伺えますか?イタリアの若いタンナーが作っていると聞きました」(柿本)

 

「ちょうどコロナが流行する直前の2月にイタリアに行き、いつもはタンナーを目掛けていくのでばらばらと各地を巡る感じなのですが、その時は新しいタンナーを探したいという思いもあって初めて合同展示会に行ったんですよ。ビックサイトくらい大きな会場にとにかくタンナーがたくさん集まっているところです。ベジタブルタンニンなめしの製法は古典的でクラシックなものなので、もちろん設備は必要ですが、クロムなめしよりも設備投資や維持に費用がかからないこともあり、イタリアでは家族経営の小さな規模のタンナーがたくさんいるんです。そういうところがイタリアの面白いところですね。色々見て回って一番気になったのが結局ここのタンナーでした。ブースでの見せ方もすごくこだわっていて面白かったし、あとはとにかく革質が良かったですね。クラスというのはそこのタンナーの馬革です。正確にはホースバットといってお尻の部分ですね」(小島)

 

 

 

共有されない価値観を共有するために

 

 

肌理の細かさや艶、馬革ならではの独特な表情やシワの美しさに心惹かれた柿本や中出。その時に“いい革である”ということを感覚的に感じてはいるものの、同時に、他と違ってどれだけこの革が良いのか?というのは多くの人にとって判断が難しいところ。素朴な疑問に返ってきた小島さんのことばは実に単純明快なものでした。

 

「革を出してみましょうか。サンプルで抜いたりしてしまっているので欠けが多いですが、これがクラスレザーです。馬のお尻の部分になります。馬のお尻だと一般的にはコードバンが有名ですが、コードバンが裏革を削り出してできるものなのに対して、ホースバットは表革です。お尻って馬だけではなく牛とか全ての革で言えることですが、繊維が一番密なので質がいい場所と言われています」(小島)

 

 

「いい革ってどうやって見分けたらいいですか?というのはバイヤーさんによく聞かれるんですけど、それが靴屋の孤独というか、共有できないところなんです。洋服の生地ってみなさん詳しいから、展示会に行っても、見て触ったら説明されなくてもいい生地だなっていうのが共有できるじゃないですか。革ってそれが感覚として共有されていないから、すごく寂しいというか(笑)それで自分もあまり説明をしなくなってしまったんですけど、とあるアパレルブランドの展示会に行った時に、そのデザイナーさんはとにかく詳しく説明してくれるんですよ。僕は服屋じゃないからわからないよって伝えても、それでもしっかり説明してくれて。自分もそうしないといけないかもしれないなって感じました。まずこの革をぎゅって触ってみてください」(小島)

 

 

「なめらかで、もちもちしていて、なんか多分いい革だろうって思います。ぎゅって触るとそれがすごくわかります」(中出)

 

「触っていい革はやっぱりいいんです。生地と一緒です。革の良さっていうのは色々あって、革ならではの価値観もありますし、クロムなめしか植物タンニンかでも求める価値は変わってくると思います。でも、単純に触ったときの良さは確かな価値です。靴や鞄になってしまうとこうやってぎゅっと触ることができない分判断は難しくなりますが、そういったときは艶の感じとか、肌理、シワの入り方で判断します。でも手で触れた時の良し悪しはとても大切です」(小島)

 

今回別注のベースとなったサイドジップブーツは以前にも別の木型で制作したことがあり、今回のモデルは新しい木型にのせて刷新したもの。そういった作業の背景にも、靴屋の孤独があるのだと小島さんは続けます。

 

 

「革の良し悪しに関する感覚の他にも靴屋ならではの悩みみたいなものがもう一つあって。靴のシルエットって、足の形が決まっているものなのでそう大きく変えられません。なのでやれることが限られてしまうんです。僕は1年に1型、もしくは2シーズンに1型くらいのペースで新しい木型を作っているんですが、その度に外羽根、内羽根、モンクストラップ、サイドゴア、サイドジップ…と全て作っていきたいと思っていて、それくらい、木型が変わると出来上がる靴は全く違うものになるんです。でも、長年展示会に着ていただいている人からすれば『またサイドジップですかあ…』みたいになる(笑)限られた範囲の中で自分としては大きな変更はしているつもり、でもやっぱりそう見えてしまう気持ちももちろんわかるんです。だけど、作らずにはいられないというのが、靴屋ならではの悩みかなと」(小島)

 

「洋服でいうところのオーバーサイズとジャストサイズの違いじゃないですけど、その違いのようなものが木型にはあるんですよね。だから一見わかりづらい、小さな違いに見えますけど、実際には結構見え方から履き心地まで変わるものですよね」(中出)

 

 

「靴ってモノ的な視点とファッション的な視点とがあると思うんですが、ファッション的な視点で極論をいえば、靴に求められていることって僕はボリューム感と色くらいだと思っているんです。スタイリングとしてみた時に靴が果たす役割は、ソールや木型が厚いか薄いかの違いとかで見える全体のボリュームと、色ですね。モノ的な、内羽根か外羽根かの細かいところは全体にはあまり影響してこないのかなって。木型が変われば一から作り直したくなるっていうのはそういう観点からで、今は太めのパンツが多い中で、こういうボリュームの新しい木型を作りましたとなったときに、これまでのデザインがあるからいいかとはならない。それに合わせて、最適な形やバランスにしっかり作り直したいんです」(小島)

 

「じゃあ1年に1回作る新しい木型というのは、ファッションを見ているんですか?今はこんなボトムスの流れになってきているなとか」(柿本)

 

「僕は服屋ではないので正直そんなに高い感度では捉えられていないですが、それでも普通の靴屋よりは見ている方だと思います。単純に取引先が洋服をやっているところが多いのが理由ですが。でもそれって結構重要だと思っていて、服と靴は本当は一緒に履くものなのに、靴屋には靴屋の価値観があって服の流れとは分断されているっていうのは違うんじゃないかなと。あまりに擦り寄りがないんじゃないかなって感じるんですよね」(小島)

 

 

「そういうこともあるかもしれません。僕たちがお取引させていただいているのは、靴屋でも眼鏡屋でも、ファッション感覚が同じ人です。例えば僕らが眼鏡を取り扱いたいと思う時、作りの確かさはもちろんのこと、自分たちの着ているものに合うかどうかは重要な判断材料になるので、その価値観が共有されていないと、選ぶことが難しいというのは僕たちから思うことの一つです。幸い僕たちはそういった感覚が共有できる人とお付き合いさせていただいていますけどね」(柿本)

 

「靴の中では、アパレル靴と本格紳士靴を分けようとする価値観というか、アパレル靴は作りが甘いっていう偏見がまだまだあると感じるんです。例えばメゾンブランドが作っている靴があったとして、靴好きの人や業界の人からするとその靴をよしとしないというか、紳士靴目線での拘りみたいなものがあって、ファッションとは分けて考えようとする。もちろん棲み分けは必要だと思うけど、クオリティに違いはないのであればもうそういったことに拘る時代じゃないのかなと。だから僕はそういった部分は一度フラットにして、その時に作れるもの、作りたいものを自分なりの背景や文脈をもって作ろうって思っています」(小島)

 

今ではレディーメイドのシューズではそのほとんどが吊り込みの作業を機械で行うのに対し、formeは今でも手作業、手吊りでの生産を続けています。靴だけが主張をすることなく、日々の中で人が洋服を着て靴を履く実際のシーンにイメージを膨らませながら、そういった靴づくりにおける職人の技術やものづくりの歴史は損なうことなく確かなクオリティの靴を作るforme。靴は洋服と一緒に合わせるものであるから、両者は別軸で考えるべきではないという小島さんの視点があってこそ、私たちはスタイリングに合わせて靴を選ぶ楽しさも、一足の靴を長く愛用したときの喜びも味わうことができるのです。

 

 

 

 

photo : Ryuhei Komura
text : Yukina Moriya